#58【劇評・絶賛】『ネクスト・ゴール・ウィンズ』くらたの好きがてんこもり(ネタバレあり)(前編)
昨日までのかぐや姫への怨嗟にお付き合いありがとうございました!
頭の中……というより感覚的には腹の内のアメーバ状のモヤモヤを、言語化して書いてここに公開することで、そこで更新がロックされて――公開以降は誤字修正くらいしか更新できませんから――一つひとつ「済んだこと」として片付けてゆく感覚がありました。
「スキ」くださった方もありがとうございます。あのときの悔しかったくらたが慰めてもらえた気になって喜んでいます。そういう場面が『3月のライオン』(羽海野チカ/白泉社)にもありましたね。
大好きなシーンです。未読の方はぜひ。
お目汚し申し訳ありませんでした、ありがとうございました!
さて、今日は好きなものについて書きたいということで、『ネクスト・ゴール・ウィンズ』の映画評を。
昨年末だったか、チラシ(タイトル写真参照)を見てからずっと気になっていたので、先日観てきました。とても良かったです!楽しかった~!
平日朝8:45からの回、観客はくらたを含めて4人、くらた以外はみんな男性(おじさん)でした。くらたが観るものにしてはめずらしい構成。
例によってネタバレありです。未見の方、ご了承ください。
概要
あらすじ
「サーチライトピクチャーズ」って、あの『哀れなるものたち』と同じ会社なんだ。レンジの広さがすごいです。
実話をもとにしたフィクション
みなさん、2001年、ワールドカップ予選史上最悪の0-31でオーストラリアに大敗を喫した米領サモアの実話をご存じでしょうか。
映画冒頭でこのときの31ゴールの映像が流れます。アナログテレビのようなスタンダードサイズのガビガビ映像だったので実際の映像だと思われます。それ以降しばらく米領サモアは勝利はおろか1得点も上げられないまま世界最弱チームとして名をはせることになります。
そこから2014年のワールドカップ予選で悲願の一勝を目指すこの話は、ドキュメンタリー映画にもなっているそうです。
くらたは全く知りませんでした。
そもそもサモアにサモア独立国と米領サモアがあるのも知らなかった。米領サモアに行くにはハワイのホノルルを経由して18時間ほどかかるそうです。
何にも知らないで観に行った結果、笑って泣いて帰ってきました。
好き1:コミカルで気楽に観られる
オープニングとラストに、「古畑任三郎」的小芝居
オープニングは、聖書の場面を派手な色で描いた衣装を着て、阿部寛に似た妙に押しの強い牧師さんがこちらに向かってストーリーテラーのように語り掛けます。何と言っていたか忘れましたが、『古畑任三郎』の冒頭の田村正和さんのアバンタイトルみたいな感じです。
ラストはいいこと言ってたので覚えています。それは後程書きます。
パンフレットで知りましたが、実はこの牧師さん、タイカ・ワイティティ監督だったそうです。いい意味で、ふざけた人です。
「油性ペンだから消えないんだ」 顔中に落書き
「油性ペンだから消えないんだ」……冒頭から笑わせてくれるのが、米領サモアサッカー協会の会長タビタが、試合で、米領サモアが1点でも得点できなかったら顔中におっぱいの落書きをしていいという賭けをして負けて、実際に油性マジックで11も描かれた姿で登場すること。
タビタの息子で代表選手のダルーは「白人の監督なんて嫌だぜ」と言いますが、顔の落書きに怒り心頭のタビタの妻ルースは「そんなことを言っている場合か!」とタビタを責め立て、タビタは本国の米国サッカー協会に新監督の派遣を依頼することになります。
それをいっちゃあおしまいよ
いっぽうで、アメリカ本国内、米国サッカー協会では会議が開かれており、感情の制御がきかない問題監督トーマス・ロンゲンが、辞めるか、米領サモアへ行くかの厳しい二択を迫られます。命令する事務局側には、別居中の妻もいるようす。トーマスが怒ると事務局側の妻がお手上げと言わんばかりの表情をして、「一緒に住んでいた時からこう」などと言います。
しかも、この時のトーマスの反応を、事務局側が「喪失の受容の5段階」(1 否認 → 2 怒り → 3 取引 → 4 抑うつ → 5 受容)に当てはめて分析していくのもまたおかしみがあります。しかも、「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」のそれぞれをスライドにまとめて用意してあったのを、タイミングよく出してあげつらっていく。
トーマスも大概な人物のようですが、目の前で妻に内情を暴かれ、自分の反応をすべて「受容の5段階」に当てはめて「それは事務局にとってはすべて既知の状況、想定の範囲内である」=「トーマスがその枠内の反応しかできないのならば彼にできることは事務局の提示した選択肢から選ぶことしかない」と突き付けられては、少々気の毒な気もします。
携帯の電波がつながらない
観念したトーマスを米領サモアの空港で出迎えたのは、上記のとおり顔の落書きが消えていない米領サモアサッカー協会会長のタビタ。
顔中おっぱいの人がサッカー協会会長というだけでも不安なのに、国中の道路は時速制限32km、自転車にも抜かれるありさま。
用意された家には携帯の電波つながる場所がなく、トーマスは家じゅう携帯をかざして歩き回る羽目になります。それは『宇宙兄弟』30巻で南波日々人がロシアの宇宙センターに移籍した最初に宿舎でしていたのと同じ絵面で、電波を失った人々はこんなにも同じ動作をするのかと笑ってしまいました。
実は、この携帯の電波が入らない描写のあとから、日常の合間に、トーマスの娘からの留守電の音声が何度か織り込まれます。
「忙しいんだものね、仕方ないよね。折り返し待ってます」
「どうして電話をくれないの?ママから留守電の使い方をちゃんと習って!」
「これを聞いているということは、留守電の機能の使い方はわかっているのでしょう?」
最初はこれを、電波が入りづらいから留守電が溜まっていってしまうという描写なのかな、と思っていましたが、映画のクライマックスで、それは見当違いであったとわかります。
「空き缶女」
トーマスが米領サモアに赴任してすぐ、最初の壁にぶち当たります。選手たちの持つ文化・時間感覚が、本国の選手たちのそれと全く異なることです。練習時間に人が揃わない、フォーメーションどころか基礎的な練習方法も知らない、練習中でも教会の鐘の音が聞こえると手を止めてお祈りが始まる、日曜日には絶対に練習をしてはならないなどなど。
練習をほっぽりだして、砂浜に座り込んで海を眺めるトーマス。
と、遠くから、黒いネットの付いたつば広帽子(ハチの巣駆除の時にかぶる帽子に似ている)を被ったあやしいオバサンが、砂浜に捨てられた空き缶を集めながら近寄ってきて、何やら「空き缶はリサイクルして生まれ変わる」というような内容のスピリチュアルなことを言って去っていきます。
実はこれはタビタの妻ルースがタビタの指示で行ったこと。
ルース「こんなこと意味があるの?」
タビタ「白人はスピリチュアルが好きだからな」
オウ、アメリカンジョーク。しかし、果たしてこれが功を奏してトーマスは気持ちを切り替えて再び練習の場に赴きます。トーマス、ちょろいな!
好き2:ハワイの自然
劇中、山や海などすばらしい自然が映し出されます。
くらたは洋画大好きなのですが、第一にはこの、見慣れない美しい景色から非日常を堪能できるからです。
サッカー練習場の背後にそびえる美しい山々がハワイの景色にそっくりで、やはり同じポリネシアだから似ているのかな、などと思っていたら、なんと撮影はハワイで行われたそうです。
ディズニー映画『モアナと伝説の海』でも描かれたような、山のてっぺんから見る広々とした海、本当に素晴らしい風景でした。
タイカ・ワイティティ監督はなんと「現地カルチャーに精通したクリエイター」として『モアナと伝説の海』の第一稿を手掛けたそうです(が、本編にはほとんど反映されていないとか)。
好き3:ポリネシア文化
鷹揚で生命力にあふれるポリネシア文化が堪能できるのも、この映画の大きな魅力。はああ、利便性に飼いならされたくらたが暮らすのは大変そうだけれど、温かい国のこのおおらかさや力強さはあこがれ!好き!
制限速度 時速32km
調べてもホントかどうかわかりませんでしたが、劇中では米領サモア内の道路はすべて制限速度が時速32km。ある日トーマスが与えられた車で50km出して走っていると、待機していたパトカーに捕まってしまいます。
このパトカーのサイレンが壊れていて、警官のランボーが口でサイレンの真似をするのも、のんびりしていて笑えます。アイフルの大地真央のCMを思い出しました。またこのランボーが空き缶を蹴り上げてゴミ箱に入れる姿を見て、トーマスがナショナルチームにスカウトするのも面白いです。
華やかな布たち
テントの風よけ、女性のドレス、男性の腰巻(イエファイタガというそうです)など折々に出てくる伝統的な模様の入ったカラフルな布がとっても魅力的です。ハワイにもこういう模様があって、それぞれに意味があるとフラの先生に習いました。作中でそれらが説明されることはありませんでしたが、深い歴史や文化を感じました。
タトゥーにも伝統的な紋様があります。『モアナと伝説の海』でも、マウイの身体のタトゥーを活かした面白い演出がありましたよね。
同時期に観た『ボーはおそれている』に出てくる怖い人が全身びっしりタトゥーが入っていましたが、その恐ろしさとは全く異なります。『ボー』についても新しい体験だったので、今度書きたいとは思っている。。。
閑話休題。
トーマスの彼らの文化に対する理解が深まっていくにつれて、イエファイタガを腰に巻くようになったり、彼は見た目にもわかる形でサモア文化に溶け込んでいきます。その姿からは彼の持つ素直さや敬意を感じられて、好意的に観られました。
何かあったらすぐ踊る!
また、何かあるたびにすぐ踊るのも、ポリネシア文化らしさを感じました。
終盤の、2014年ワールドカップ予選の初戦・トンガ戦の前夜祭でも、島外から来た関係者たちが室内で飲み食いしているのを尻目に、選手たちは屋外で音楽やダンスを楽しんでいます。
また、試合の前には、雄叫びとダンスを組み合わせたような「シバタウ」を行います。似た文化では、ニュージーランドの先住民族マオリの「ハカ」が有名ですね。
シバタウ、物語冒頭はそれさえもそろわず全く整わなかったのですが、ラストでは全員でしっかり決めます。とてもかっこいいです。
郷土料理 生魚のココナッツミルク和え
上述の「空き缶女」と並んで、「トーマスちょろい」エピソードに描かれるのが、タビタの経営するレストランでサービスされた生魚のココナッツミルク和え。
トーマスにタビタは「この魚も、まさか玉ねぎとココナッツミルクでマリネされるとは思わなかっただろう。でもマリネされてみれば、食べて見なさい、とてもおいしい料理になる」と告げます。一口食べてみると、果たしておいしいマリネに、トーマスは考えを改めるのでした。しかも、トーマス流の練習を承知しない選手に、全く同じことを言って説得しさえする。トーマスちょろかわいい。
おそらくこれかな、と思うのが「オカイア」というサモア料理です。
オカイア|サモア料理 レシピ|e-food.jp
オカイアはどこで食べられるかわからなかったので、エッグスンシングスに寄ってアヒポキを食べて帰りました。アヒポキにはココナッツミルクは入ってないけど。このアヒポキもおいしいですが、ポキなら、アロハテーブルのもマグロとマヒマヒのポキ丼が一番好きでくらたのおすすめです。
と、5000文字を越えてしまったので、今日はここまで。
明日はよりネタバレ色の強い後半について書きたいと思います。
今日もお読みくださってありがとうございました!