【雑感】日本国憲法について 考えるための小さなヒント その3
まえおき
少し前に日本国憲法の前文は倒錯と欺瞞に満ちていると書いた。その次に、日本の国体=国家観を考えるには、先人の国家観を見直すのがいいのでは、聖徳太子の十七条憲法をはじめ偽書とは言われているがホツマツタヱや江戸時代の新論などいろいろ参考になるものがあるのでは、と書いた。読み直してみると、前者は多少は論が組み上がっている印象があるが、後者は、どこかふわふわしている。ま、仕方がない。最初っから『しっかり』論を組み上げるなんて出来やしない。
どちらにもに共通しているのは「国家と国民が健全に協力し合う」のが日本の伝統的な国家観に合致するのでは、という思いだ。
今回は『【雑感】日本国憲法について 考えるための小さなヒント その3』だ。
前回までの記事。
自民党の憲法改正案はヤバイヤバイと騒ぐ人が多い。そんなにヤバいの?法律の素人だからまずは前文をチェック。前文には理念や理想が詰め込まれているからね。そこから始めよう。
自民党の日本国憲法改正草案
下記に前文を引用する。平成24年(2012)に決定したという。もう12年も前の草案だ。短くって簡潔で、趣旨がわかりやすい。
5段落分の文章。各段落のキーワードを抜き出してみると…。
1段落目:日本の長い歴史、象徴天皇、三権分立。
2段落目:先の大戦、大災害、国際社会での地位、諸外国との関係、平和と繁栄への貢献
3段落目:国と郷土への誇り。自ら守る。基本的人権、和を尊ぶ。家族や社会。国家の形成。
4段落目:自由と規律。美しい国土と自然環境。教育、科学技術。経済活動。国を成長。
5段落め:日本国民、良き伝統。国家。子孫に継承。
んー?なんか、違和感ある…なんだろー??違和感がありまくるっっっ。
日本語として意味が取れないわけではない。だけど「コレだ」と言うピッタリ感もない。キーワードの花束みたい。キーワード同士が関わり合ってない。
そっか。この憲法の前文には、君臣民のうち、君と民は出てくるけど、臣が出てこないんだ。ぼんやり、としか。三権分立、とか。国家とか。そういう言葉は出てくるけど。国土とか自然環境への思い入れとかはあるけど。
「家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」とあるけど、じゃあ国家は国民に何してくれるの?国家は国民とどう接するの?というのが、ない。「基本的人権を国家が守る」ならわかる。「基本的人権を守る国家を国民が形成する」ならわかる。(これは何度も言うようにあの『韓国のおじいさん』が言っていること、だ)
我が国の伝統、というのであれば、お江戸ルネッサンスで判明した、「古代より国民を『大御宝』として大切にしてきた」と言う理念を書かんとダメ、だ。そしてそれが先の大戦で棄損したことも。その修復は、まだ、なされていない。途中なんだ。清算されてない。
んじゃ、大日本帝国憲法はどんなだろう??先の大戦で「国民を大御宝として大切にする伝統」が棄損される前、だ。
君臣民がバランスよく登場するのだろうか?国民も、国家も、日本国を『良い国』にするために協働する。そんな憲法へのヒントとなるだろうか?
というわけで、大日本帝国憲法の前文も見てみよう。
大日本帝国憲法の前文(上諭)を読んでみる
大日本帝国憲法には前文というのはなくて、上諭がある。上諭とは、ウィキを見ると「日本国憲法施行前の日本において天皇の言葉として記された法令の裁可・公布文」とある。つまり天皇陛下による『前書き』=『前文』だ。
ところどころ今ではお目にかからない難しい熟語があるけど、基本的には日本語としてわかりやすいように思う。というわけで、歴史にも法律にも素人ではあるが、そういう立場の人が訳してみるのも一興だろう。こちらで現代語に試訳してみよう。(間違いなどありましたら、ご指摘ください)。
6段落からなる前文である。
1段落目:天皇と臣民の関係について。その歴史的経緯。現在と今後の関係。
2段落目:主権は天皇にあるが、天皇といえども憲法に従う。
3段落目:臣民の権利、財産権の保障。憲法と法律の範囲内で。
4段落目:帝国議会=国会の招集。
5段落目:憲法の改正は国会の議決が必要。
6段落目:憲法を施行するのは大臣である。臣民は遵守するように。
あああ〜。1段落目にある「私(天皇)の祖先が情けをかけ労ってきたであろう臣民なのだと想いをいたし、その幸福を増進し、立派な徳と素晴らしい能力を開花させてほしいと願い、その助けをもって、ともに国家の進歩・向上を図ろう」こそ、私がコレが憲法にあるべき!と思っている理念、だ。うん。近い。近いゾ!
これこそ、国民と国家の紐帯、だ。大東亜戦争後に棄損されてしまった…。
君臣民。大日本帝国憲法では君は独立して記述されているが、臣民は渾然一体として書かれている、臣民として。大臣は独立して『大臣』と書かれているけど。臣民という言葉は使われているけど、実態としては君と臣が一体となっている印象。国家権力、という点で。(当時の人は逆に君と臣民というふうに分けて考えていたかもしれない。臣は君の家来であったが民も君の家来になった、と解釈された。大御宝から家来。なんか落ちぶれた感じ。でもそう解釈した人が多かっただろうし、その解釈が意図されたものそのものでもあっただろう。こうしてみるとなんと多義的に解釈できることよ)。
日本国憲法後、これから作られる憲法では君は象徴として国家権力から切り離されることが自然だろう。つまり明治より前、徳川以前に戻るわけだ。江戸時代、国家権力は徳川幕府が握っていた。つまり当時、臣は徳川幕府そのものだった。征夷大将軍。つまり天皇の家来だ。では、これから書かれる憲法における臣は?もちろん政治家であり官僚だ。臣は民が、民から選ぶ。信任する。象徴である君が信任する形をとるのかな?どちらにせよ、臣は臣として独立してその理念や在り方を示す必要がある。
そういう点で自民党案はダメだ。
今のところは、そんなメモ書き。
引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
下記が一番シンプルそう。「日本国憲法に、大日本帝国憲法、教育基本法、児童憲章、英訳日本国憲法、日米安全保障条約の全文を収録した新装版」とのこと。
今までの国会での議論や国立国会図書館がまとめてくれた資料
下記『衆 議 院 憲 法 調 査 会 に お け る「 国 民 の 権 利 及 び 義 務 」に 関 す る こ れ ま で の 議 論』は近々に読んでみたいと思っている。読み込んではいないが、パッと見では、基本的人権などを制限する方向のまとめ方のように感じた。いや、そこじゃないのよ。国家と国民の協力関係よ、肝心なのは、と思ふ。平成17年(2005)作成。これも20年も前のものだ。…ごめん、まだ読めていない。
それから下記 衆憲資第 50 号「 憲 法 と 国 際 法 ( 特 に 、 人権の国際的保障)」に 関 す る 基 礎 的 資 料 最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会(平成 16 年 4 月 22 日の参考資料)平 成 1 6 年 4 月衆 議 院 憲 法 調 査 会 事 務 局 も。
下記で、各国憲法に各国の自国国体がどのように表れているか、概観した。アウトラインすぎるきらいもあるが、でもまあ、はじめの一歩であれば、十分すぎるほどよくまとまった資料である。素晴らしい。
国⽴国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF― 第973号 No.973(2017. 8.24) G20 各国の憲法概観 国立国会図書館 調査及び立法考査局
憲法課 井田 敦彦
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10856723_po_0973.pdf?contentNo=1
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