迷子への憧れ-小川洋子「約束された移動」
幼い頃、迷子になるのが夢だった。ショッピングモール、スーパー、駐車場、スキーゲレンデ、海水浴場。親と繋いだ手が離れた瞬間、私は迷子になるべく棚や車の影、人々の群れに溶け込んだ。
迷子になることが好きなのは、きっと、大きくなってからも変わっていない。勉強に行き詰まると予備校のあった街をふらふらと漂い、自分がどこにいるのか分からないほど遠くまで歩いて行った。留学先のプラハでもあてもなく歩きまわり、複雑に絡まる路地に迷い込んだ。
誰かに見つけて欲しい。もしかしたらそんな承認欲求がも