なぜマネジメントをやりたいと思わないか

昔からマネジメントには興味がなかった。そして 30 代も後半という今でもマネジメントには依然興味がわかないし、やりたいと思わない。

27 歳で転職活動をしていたとき。
「エンジニアとして技術を高めたいので、いまのところマネジメント方面のキャリアには興味がありません。ただもしかしたら 5 年後には興味が出ているかもしれません」という回答をしていたことを覚えている。
(若いころにやたらと技術力にこだわっていたことに関しては、前の記事に書いた)

「5 年くらい経ったらどうかはわからない。」
これは当時、まだエンジニアとしては駆け出しのレベルだった自分が、技術力がついたときにどうなるかに、全く想像がつかなかったからだ。

もしかしたら、エンジニアとしての自分の技量やセンスのなさに挫折するかもしれない。
もしかしたら、35 歳定年説という話があったように、30 歳を越えたらプログラミングがキツくなってきて、エンジニアとしての限界を感じるかもしれない。
もしかしたら、ぼくが作りたいようなものは実はひとりでは到底つくれるものではなく、チームで作るためにはマネジメントをせざるをえないのかもしれない。

当時そこまで具体的に考えていたわけではないが、多分うっすらそんなことをどこかで考えていたのだと思う。

しかし結局、それから 10 年近く経ったいまでも、相変わらずマネジメントをやりたいという気持ちはない。なぜなのか自分でも深く考えたことはなかった。

たぶん、今までの経験から適正がないことがわかっていたからではないかと思っていた。
ちょっとだけマネジメントっぽい業務をしたこともあったが、他の人の実装の詳細だったり細かいことが常に気になったり、コミュニケーションの課題が多く会話や会議が増えたりするのがとてもストレスだった。
「ホントしんどい」となんども思った。

しかし、なんでマネジメントには興味がわかないかをもっと掘り下げて考えてみたところ、結局のところ、こうなりたいと思うような、カッコいいと思えるマネージャに出会ったことがない、という結論にたどり着いた。

ぼくが「カッコいい」と思う人、「そういう人になりたい」と憧れる人は、端的に言ってしまえば、スゴいものを作りだしている人だ。
これは、ソフトウェアに限らない。好きな作家やアーティスト、映画監督、料理人などにも憧れるような人はたくさんいる。

ソフトウェア開発の仕事の場でも「めちゃくちゃカッコいい」「そんな人に自分もなりたい」と思える人には何人も出会った。
そしてそういう人たちはやはり、「スゴいものを作りだす人」で、ぼくから見ると「職人的なタイプのエンジニア」だった。

この人だからこそ、このプロダクトを作れた」「このプロダクトは、あの人じゃなければ作れなかったのではないか」そんな風に思わせるようなプロダクトを、その人の手から生み出す人たち。
ぼくもそうなりたい、素晴らしいプロダクトを作りたい。そう思わせてくれるような人たち。

ちなみに、「職人的なエンジニア」という表現をすると、コミュニケーションに難があるような、仕事の場ではちょっと周りを困らせるような人を想像してしまうかもしれない。
しかしぼくが憧れる「職人的なタイプのエンジニア」の人は、概してコミュニケーション能力が非常に高い。とてもわかりやすい言葉で相手の理解を見つつコミュニケーションができ、共感力が高く、攻撃的だったりすることもない、そんな人たちだ。

そして逆に、マネジメントを専門にしている人で、ぼくが憧れるタイプの人には残念ながら出会えたことは今までにない。「あの人がマネージャだったからこそ、このプロダクトが生まれた」というモノにはまだめぐり会えたことがない。

そんなプロダクトは世界中のどこにもないだろうというわけでなく、単にぼくがそういうモノや人や現場に出会えたことがない、というだけかもしれない。
しかし、素敵なプロダクトは――ぼくがクールだと思うようなプロダクトは、といった方が適切かもしれない――創作者の心から生まれるものだと思っているし、創作者のとてつもない情熱とエネルギーが必要だと思っている。
マネージャがチームを引っ張って、メンバーたちが手を動かしながら、その細部の細部にいたるまで創作者の思想や理想を表現していくことは、非常に難しいことではないかと思う。

いつかそういう、憧れるようなマネージャに出会うことはあるのだろうか。
そしてぼくも、ひとりでは作れないようなものを、チームを編成して最高のものを作りたいと思うようなことがあるだろうか。

たぶん、20 代の頃にうっすら、興味がわくことはなさそうと思っていたように、それはないだろうという気がしている。
個人の魂から生まれる創作への想いと、細部にいたるまで丁寧に心を込める制作こそが、そのプロダクトをほかの人の心に届けることができると思っているから。

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