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「アラゴルンは飛ぶように丘を駆け上がっていきました。」

映画再上映を記念して、ただいま絶賛『指輪物語』再読月間になっています。
読み返していると、自分の記憶がずいぶんと映画と原作で混濁していることに気がつきました。

さて、今回は第二部「二つの塔」の上巻です。

J.R.R.トールキン著、瀬田貞二・田中明子訳『指輪物語 二つの塔(上)」(評論社、2002年)

出版の都合で上下巻に分かれているとはいえ、上巻はメリーとピピンの探索行、その後のローハンとの共闘と、エントによるアイゼンガルド襲撃、と、話は飛ぶようにすぎていきます。
そういう意味で、わたしは上巻のほうが断然好きです。
下巻はほら…… ただひたすら辛いだけだからさ……

「アラゴルンは飛ぶように丘を駆け上がっていきました」
とあるように、上巻はとにかく話が早い。
ホビットたちの徒歩のスピードとは全く異なり、とにかくひたすら歩き続け走り続けます。
アラゴルンはそのようにして、サムを引き離してしまい、そして指輪所持者の探索行はかれの手からは離れたのでした。
そしてかわりに、メリーとピピンを救出するという別の目的のもと、レゴラスとギムリともう一度手を取り合うのですが、この追跡も結局失敗してしまいます。
メリーとピピンは自分達なりの方法でどうにか難を逃れ、そして、ガンダルフが会議で言った「賢者にも先は見通せない」という言葉のとおり、エントを目覚めさせる、という結果でアイゼンガルドの強固な塔を打ち倒すに至ったのでした。

わたし、この巻のメリーとピピン大好きなんですよね。
ふたりとも大変な苦行を強いられて,ホビットとして十分な食事をするどころか、普通の大きい人でも耐えられないような飢えと苦痛の中でも希望を捨てず、自分達の分かる範囲内で、自分達のできることを、いとも楽しげにやり遂げてしまうからです。
このカラッとした快活さが、本来ホビットの持っている性質なのでしょう。
フロドは四六時中指輪に悩まされていますし、サムはそんな主人を元気づけようと四苦八苦しています。
レゴラスがメリーとピピンのことを、「あの愉快な若者たちが家畜のように追い立てられて行くかと思うと、胸が煮えくりかえりそうだ。」(p.37)と評しているように、かれらは実際のところ、この指輪棄却の探索行が中つ国の長い歴史の中でどのような意味をもち、エルフにとってどんな意味があり、アラゴルンがそれにかける思いを知らず、ガンダルフのこれまでの労苦を知らず、一国の命運を担うボロミアの苦悩を知らず、いたって無邪気に、「フロドについて行くのが自分達の役目だ」というだけで、旅についてきたのです。
指輪に直接関係ないという点ではギムリも同じですが、彼は一族の代表であり、また自身が勇敢な戦士でもあります。
それに比べてまだ二十代の、成人にも達していない二人のホビットは、不死の命をもち数々の戦いと衰退していくエルフの行く末を見つめてきたレゴラスの目には、このふたりは本当に無邪気に、世界がまだ生まれたばかりで苦しみを知らない頃の、エルフの子どもたちのことを思い出させたのかもしれません。

その二人が、今後第3部で大変なことに巻き込まれて急成長を余儀なくされるところも、この作品の見どころのひとつです。

優れた作品にはよくあることですが、この物語を「メリーとピピンの成長譚」として読むと、フロドの消えゆく定めの探索行とはまた別の味わいがあります。
無邪気な少年と青年のあいまにいたふたりは、歴史の流れの中で重要な駒となり、それぞれの意志で別べつの主君に仕えることになりますが、結局は冒険に成功したかつてのビルボのように、立派に成長して故郷に錦を飾るのです。

かーわいいなあ。
メリーとピピンほんとに好き。
でもピピンのほうがちょっと損をした気がしますよね。かわいそうに。
わたしだったらデネソールよりもセオデンに仕えたい。
いや、ファラミアがいいかな。

アラゴルンのことにもフロドのことにも全く触れずにきてしまったけれど、今読んでいるのがちょうど木の髭のところなもので、ついついね。

アラゴルンといえば、角笛城の戦いがありますが、あれも燃えます。
「アンドゥリル!ゴンドールにはアンドゥリル!」
「グースヴィネ!マークにはグースヴィネ!」
というアラゴルンとエオメルの雄叫びと戦いが好きで好きでたまらないのですよ。
あとギムリの
「カザド!カザド アイ=メヌ!」
も。

戦っている人たち、本当によい。
そして戦いは馬と剣と弓と槍の時代が一番よい。
一番熱い。

そして10月7日から、IMAXで「二つの塔」が上映されますね!
期間限定なので何回いけることやら。
がんばろ。
だけどわたしはファラミアの改悪を許さない。
絶対だ。

追記。
見てきた。
よかった。
だけどわたしはファラミアの改悪だけじゃない。
セオデンの改悪を許さない。
木の髭のせっかちさを許さない。
馳夫さんの色ボケを許さない。
絶対だ。


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