フランス・季節の仕事~葡萄摘み①~
2007年9月16日…
2か月過ごしたリヨンから、電車で揺られること5時間以上…。
私はようやくリヨンからずっと北北東にある、アルザス地方・コルマールの駅に辿り着いた。ここで私は、葡萄農家さんと待ち合わせをしていた。
わざわざ車で迎えに来てくれたのだ。
今日が初対面。いや、もしかしたら、以前に会っていたかもしれない。
実は以前、こちらのワイナリーに旅行で訪れており、今回お願いしたのも、そんな縁からのことだった。
今日から、新たな生活が始まる…。
私は少し緊張していた。
高速道路を走ること数十分…流れる景色を見ていると、家の屋根にはコウノトリが巣を作り…私の目は輝きだした。これぞアルザス!
今までの辛かった日々を忘れさせる、素晴らしい景色に私は夢中になっていた。今回フランスに来た理由には、この、アルザスで葡萄摘みの仕事をする!という夢もあったのだ。
こうして到着したのは、小さな村。
私は葡萄農家さんの自宅へ泊めてもらうことになっていた。
住み込みで働くという訳だ。
私は部屋に案内された後、夕食をご馳走になった。
これが私の、人生初のRaclette(ラクレット)だった。
ラクレットは、サヴォワ地方やスイス等の郷土料理。
5㎝角程の小さなフライパンのようなものに、きのこ・玉ねぎ・じゃがいも等、好みでのせ、最後にチーズを置く。熱々の大きなコンロのような所に暫く置いておくと、チーズがとろっと溶けてくるので、それをお皿にあけて頂く。
小さなフライパンを2つ支給され、この温め作業が止まることのないように、交互にのせていく…なんて効率が良いんだ!
自家製ワインも頂き…幸せ…こんなに毎日美味しい料理が出てきたらどうしよう…!私は緊張こそしていたものの、何だか急に嬉しくなってきた。
その夜は、これからヴァンダンジュ(葡萄摘み)を共にする仲間が集合し、顔合わせをした。ほとんどの人が、毎年この仕事が好きでやって来るフランス人だった。つまり、ほとんどの人が互いの顔を知っていた。私はその中で、新顔という訳だ。中には、ヴァカンスをこの期間にあててまで来る人もいたのだから、よっぽど魅力的な仕事なのだろう。
私の隣に座ったのは、少し年上のフランス人女性だった。
手作りケーキとコーヒーをお供に、会話も弾み、夜は更けていった…。
翌日から、いよいよ仕事だ。
まだ真っ暗な部屋の中に、アラームが鳴り響き…私たちは体を起こした。
昨夜、隣に座った女性と、相部屋になったのだ。
見渡す限り葡萄畑のここで、ほとんどの人達が寝泊まりをしながら仕事をする。こういう季節労働を、フランス語で”Saisonnier"(セゾ二エ)という。
それでも、きちんと私たちは契約書を書き、サインをした。
私はワーホリであることを証明できるよう、パスポート等をコピーし、渡した。皆がなにかと”Papier"(紙)と言っていたが、この労働許可の紙を指していた。不法労働者がいないか、たまに抜き打ちチェックがあるらしい。
朝7時になると、食堂にぞろぞろ人が集まってきた。
皆、寝起きの顔をして”Bonjour."(ボンジュール)と挨拶を交わすと、それぞれが椅子に腰かけた。
長いテーブルには、ブランジュリーの焼きたてバゲットにジャムや蜂蜜、バター等が並び、カフェオレ・紅茶にオレンジジュース等、それぞれが好みで飲んだ。
私は、皆の様子をキョロキョロと見ていた。どうやって食べているのか、様子を見ていると、近くにいた人が教えてくれた。
私は、バゲットを縦半分に切り、マルシェで買ったというノルマンディー産のオーガニックバターを塗り、その上にオーガニック蜂蜜を垂らして食べた。
私は、この日を境にバターが大好きになった。
ほんのり甘みさえ感じる、このバター…こんな美味しいバターを味わったのは、人生初だった。パンとバターで、本当に幸せと感じた瞬間だった。
熱々のコーヒーを飲み終わると、いつの間にか8時前。
「CAMIONETTE!!!(カミオネ――――ット‼)」
パトロンの大きな掛け声で、私達は次々とカミオネット(トラックのこと)の後ろに乗り込んだ。9月のアルザス…朝は寒く、私達はトレーナーを着て防寒し、足元は長靴、手にはハサミを持っていた。沢山のバケツ、水の入ったペットボトル、おやつにコーヒーも乗せて…。
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