『落下の解剖学』映画感想文
公開中の『落下の解剖学』を鑑賞してきました。
エンドロールの音楽が流れはじめたとき無意識に泣いていました。良い作品でしたが、なぜ涙が出るのか、自分でもよくわかりませんでした。
映画自体はミステリーではなく、判決というかたちでの結論はでますが、真相は曖昧であとは自分で考えてください。という終わり方でした。
(涙は花粉のせいでしょうか・・・)
以下、少々ネタバレあります。
作品の冒頭に転落死した夫のことは、物語でほとんど描写されていません。夫が動いているシーンは、転落死する前日に夫婦喧嘩の様子を録音していたシーンと車中息子に語るシーンだけでした。夫は妻に喧嘩を仕掛けます。その様子は幼稚でプライドが高く支離滅裂で心の弱いダメな男に見えます。最初は冷静に喧嘩に乗らなかった妻の対応も、徐々にヒートアップしていきました。
このシーンを冷静に考えると、夫はこの夫婦喧嘩を録音するために、わざとダメな男を演じていて、妻を陥れているように見えます。妻は人気作家ですから録音が世に出たら、そこそこダメージがあります。
もし夫が自死していたなら、命をかけてまで妻を陥れたいのです。それはなかなかの憎しみです。プライドを折られただけで、その憎しみが生まれるでしょうか?わたしには今ひとつピンときません。夫は内向的なだけの、優しい人だったかもしれません。
息子の視覚障害は自分のせいだと自責し続けた夫は精神を病みました。その病んだ先に、死んで償うという発想も考えられます。自死の理由を息子のせいにしたくなかったから妻のせいにした。それは考えすぎだろうか?
いずれにしても、悲劇。
フランスの法廷サスペンス映画ですが、全体的にドキュメンタリーのような手法で撮影されていました。それぞれのキャストが語る台詞はインタビューの応答のようでもあり、物語はそれぞれの主観で語られていて、普通のサスペンス映画とはちょっと雰囲気が違いました。
夫婦が共に生きるなかで、家事、育児、仕事など多岐にわたってそれぞれの役割分担があり、お互いの役割分担の配分が妥当だと思っているときには問題にならなくても、どちらかが不公平さを感じてしまえば、問題になってきます。作品における男女の役割の在り方については、日々思うところでもあり、身につまされました。身近な人が幸せであることが、自分の幸せでもあることは肝に銘じたい。
第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で女性監督として史上3人目となるパルムドールを受賞したジェスティーヌ・トリエ監督の長編4作目。
アカデミー賞の脚本賞はどの作品になるでしょう・・・。
わんこちゃんに、助演わんこ賞をあげてください。
ダニエルがピアノを練習する 緊張感のある曲
いつも読んで下さりありがとうございます。