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気負わないバゲット

夢中になると、周りが見えなくなる。

バゲットを上手く焼けるようになりたくて、
ひたすら考えて作ってを
繰り返していたことがある。

"上手く焼ける"

というのは、美味しいは当たり前で。
とにかく、
クープが開いて、立体的なエッジのたった
カッコいい、お店みたいなバゲットに
憧れて、憧れて、恋焦がれていた。

私が使っている、いわゆる家庭用のオーブンは
スチーム機能がないから、
目指して居るバゲットを焼くことは、
困難だった。


だけど、巷には、
それらの欠点を補い、私が目指す、
本当にかっこいいバゲットを焼いている
人々が、たくさんいて、
自分も、その1人に絶対になろうと
躍起になっていた。


家族や、友達が美味しいと言ってくれても、

「いや、まだ全然だめ。」

これのどこが駄目なの?充分だよ。
と褒められても、

「いや、まだ全然だめ。」

美味しくても、あの形じゃだめ。
もっと、上手くなりたい。
もっと、もっと。

かっこいい見た目にこだわり過ぎて、
誰の褒め言葉も跳ね返した。

バゲットを作ったことない人の言葉になど、
耳を貸さなかった。


もう、10年位前のこと。
何百本も焼いたけど心から満足したのは
一本くらい(笑)

理想のバゲットは、まるで青い鳥。

"(自称)まだ、全然ダメ!"な
焼きたてバゲットを受け取った友達は、

ちょこふみのバゲットを頂いた日は、
オットがご機嫌で帰ってきて、
ワイン開けるのよ~

と教えてくれた時は、幸せだった。
それでも、まだあれは自分の実力を
出しきれていないと思っていた。

∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴


やれるだけの事は、やった。

と、どこかできちんと
区切りをつけた訳ではないけれど、
クープがエッジが…と段々と拘らなくなった。

今は、本当に気負わないで、
時々バゲットを焼く。

それにしても今日のは、ちょっとダレ気味で
平べったくなってしまった。

子どもがいたら、一本では足りないけど、
今はさすがに余る。

まるまる一本は、ガーリックトーストに
して、冷凍する。
いざと言うときには、
超特急で、お酒のつまみが完成する。

完全に切り離さないで、
合間にガーリックバターを塗る


かっこよさは求めなくなったけど、
味は美味しい。
そして、少しでもかっこいいと、
今でも、やっぱり嬉しい。


たまに、お店のかっこいいバゲットを買う。

本当にしみじみ美味しいと思うのもあれば、
私のと、味はそんな変わらんぞ⁈的なのも
ある。

たくさん焼いて、理想のバゲットには
届かなかったけど、
味は良く分かるようになった気がする。


自分には何が足りなかったのだろう?
と思えるほど取り組んだ事は、
足りなかったこと以上のモノを得ている。

今になって、そう思える。

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