『短歌往来』2024年6月号
①電源切ればテロルも政治も醜聞も消えて不安な空だけが残る 谷岡亜紀 テロルも政治も醜聞も全てが間接的に伝わって来る。テレビやネットの電源を切れば目の前から消えて無くなるのだ。しかしそれですっきりするのではなく、不安だけが残る。現代人の宿命か。
②内海の七尾湾なりこの午後を箔撒くごとく耀(かがよ)い止まぬ 三井修 地震の後、実家跡を訪れた作者。七尾湾は何も無かったかのように穏やかだ。金箔を撒いたように、という比喩に海が眼前する。自然は無慈悲さと美しさを併せ持ち、人間には制御不能なのだ。
③水と光に包まれ生きる植物の肌に触れつつわたしを許す 中山洋祐 植物には人間とは違う力が内部に宿っている。水と光から作られる澄んだ力だ。その力が放たれる肌に触れ、自分を許すことを選択する主体。読む者も植物の持つ力に触れたくなる歌だ。
2024.6.19. Twitterより編集再掲