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『塔』2024年9月号(1)
①花山多佳子「河野裕子の一首」
自意識は肌いろなのに違ひない 曇り日に象が一頭だけゐる 河野裕子
〈大きい体の皮膚を曝して見られている象。たいてい一頭だけで。その存在はどこか傷ましい。その傷ましさのなかに作者は入っていく。(…)この歌は「象」を通すことによって、自分の自意識を出て自意識そのものを対象化した普遍性を獲得している。〉
花山の評の言葉は難しい。私はこんな難解な評を書けないけれど、憧れがある。自分がこの評を理解できているかどうか心もとないけれど、こうして書き写しておく。
②小林真代「短歌時評」
〈今の短歌はみんな口語で自由だよね、という話に。どのあたりの歌を思っての発言かはわからなかったけれど、川本千栄の言う「キマイラ文語」なども思い浮かび、最近の短歌、今の短歌、のなかに自分もいるのだとあらためて認識した。〉
著者が詩の同人誌「歴程」の「夏の詩のセミナー」に参加した時の話。「キマイラ文語」を思い浮かべてもらい光栄です! 9月号「短歌時評」は「塔」のHPで全文読めます。
③あなたが来るのを少し待ってた傷ついたふりして待ってた素足をさらし 中田スピカ 初句八音が重くないことや、「待ってた」の繰り返しに、ポップスのような味わいがある。素足は素の心の象徴でもあるだろう。「ふり」と言いつつ傷ついているのだ。
④寂しさは空腹に似て人肌のチーズ蒸しパン小さくちぎる 佐藤涼子 初句二句が絶妙。逆も言える。人肌の温かさであること、蒸しパンであること、小さくちぎって食べていること、全てが初句に集約される。本当は寂しいだけでお腹は減ってない。でも食べてしまう。そんな時。
⑤両手挙げて蟻流れゆく恐らくは悲鳴にあたるもの発しつつ 高野岬 水を撒いた時に巻き込まれた蟻が流されてゆく。彼らはおそらく悲鳴に当たるものを発しているのだろうが人間の耳には聞こえない。蟻が流される時に前足を挙げる様など、残酷な観察が行き届いている。
⑥嫁入りに従者のごとく付いて来た四十五歳のドナルドダック 山田恵子 結婚45周年ということだろう。結婚の際持ってきたドナルドダックのぬいぐるみ。ちょっと人間っぽく、従者のごとく、と感じている。主体の結婚生活を一番身近に見守ってきてくれた存在だ。
2024.10.10. 12. Twitterより編集再掲