『Lily』vol.3
とてもとてもいい色の表紙。
①どうしてと幼い口の問いかけに二割答える皿洗いつつ 魚谷真梨子 子どもが「どうして」ばかり言う時期ってある。最初は丁寧に答えていてもだんだん付き合い切れなくなって来るのだ。「二割」というのが具体的でちょっと悲しい。十割向き合いたいのだけれど。
②ねがいとか持たずにいると旅人になれるか夜風 背中をさらす 江戸雪 この歌での「旅人」はただ旅をしている人というだけでなく、場所や人に執着を持たない人、という印象がある。自分の人生の中をさまよっているような。だから存在しているだけでも旅人なのだろう。
③メドレーリレーみたいに差異は広がって金銭感覚きらきらと凪ぐ 中井スピカ 水泳のメドレーリレー。種目が変わるたびに差異が広がってゆく。収入の差異が金銭感覚の差異に繋がるように。お互いの金銭感覚をきらきらと感じ取った後、もはやそれには触れないでいる。
④雨遠く蝸牛を濡らす百年を繰り返される問いの幾つか 中井スピカ 百年の時をかけて繰り返される問いとは何だろう。人間の愚かさゆえに起こってくる問いだろうか。雨、蝸牛などの言葉から土屋文明の『青南集』の歌を思い浮かべた。
2024.9.13. Twitterより編集再掲