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『現代短歌』2023年5月号

起伏なき日々を過ごせり街路樹の下の小鳥が骨になるまで 北辻一展 上句と下句の落差が凄い。何かで死んでしまった小鳥の身体が風化していくのを毎日見ていたということか。それを上句のように捉えるところに主体の屈託を感じる。

庭先に兵士の墓のある家は兵士の墓より屋根が低かり 北辻一展 太平洋戦争の従軍兵の墓か。墓石が長く高く作られているのだ。平屋建てで、庇の低い家の庭に、丈高い墓がある。そういう家がぽつぽつとある地域なのだろうが、一つの時代を感じさせる、観察の歌だ。

なだらかかもしれない道を歩み来つガラスの卵子を踏み崩しつつ 遠藤由季 自分の持つ卵子は卵子のまま流れていく。子供という形を取ることなく。それは人からは「なだらか」な道と見えるのかも知れない。けれどガラスを素足で踏みながら行くような道だったのだ。
 深く刺さってくる連作だ。雪、卵子、ガラス、タピオカ、など透明感のあるイメージの連鎖を使いながら、一連が緊密に組み立てられている。感情語を使わないのに、あるいは使わないゆえか、言葉になる前の感情が、モノを詠うことを通して伝わってくる。連作の持つ迫力に満ちている。
 一首一首もまたいいから、全部の歌を引きたくなってしまうほど・・・。特に副詞の使い方が魅力だと思った。

2023.4.19. Twitterより編集再掲

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