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『フランス短歌』Vol.4 2024
①ぬばたまの闇ありドイツにパレスティナ支援をさけぶこと叶わざる 美帆シボ 日本では見ないタイプの詠い方。欧州では歴史的背景があるから簡単に自分の気持ちだけで発言できない、それがあるから時事詠とは言い切れない。どこまで日本人が踏み込めるか難しい。
それはさておき、素晴らしい表紙の写真。
②街灯のほあんと灯った五時五分あなたがわたしを想ったとおもう グレース惠子 街灯が灯った瞬間をあなたが私を想った瞬間だと捉える。読者の心にも何かがほあんと灯る。「私は思う・あなたが私を想ったと」、外国語の構文そのものを短歌に生かしたのが魅力。
③「青い水もってかえろ」とバケツ持ち波打ち際にしゃがみ込む子よ エスノー喜美代 ところがバケツに入れると透明になっちゃうんだよな。洋の東西を問わない、子供の可愛らしさ。素材を生かすためにさらっと詠われているのがいい。
④森山佳久子「隣人画家Leppien 最期のバカンス」
〈セルジュ・ゲンズブールの妻だったという人は懐かしそうに語りはじめた。〉〈彼(Leppien)はニナ・カンディンスキー夫人とバウハウス学生時代からの知り合いで〉
著者の隣人の思い出を綴ったエッセイだが、出て来る人物が超豪華。隣人ルピアン氏の波乱万丈の人生も小説みたいで、すごく濃い、面白いエッセイだった。著者自身も画家だから知り合えたんだろうなーと思いつつ、羨ましい出会いだ。
⑤鈴木フラマン裕子「日本に凱旋門があったころ」
〈東京の日本橋に凱旋門があったのをご存知だろうか。日本橋だけではない。新橋にも、上野にも、東京の各地、いや日本各地に凱旋門が建った時期があるのである。〉
明治期の日本を描いたエッセイ。同誌Vol.3でもこの著者のエッセイを面白いなーと思って読んだ。曽祖父さんが夏目漱石の『吾輩は猫である』を出版した大倉書店を経営してらしたとか。この著者のエッセイは生きた日本史という感じがする。
高橋イサルチャル史子「ブルージュの思い出」、藤岡典子「フエの香木を探して」も面白かった。インドやオーストラリアに関するエッセイもあり、今号の『フランス短歌』はエッセイ(随筆)が充実している。強く旅情に誘われた。
2024.7.19.~20. Twitterより編集再掲