『塔』2023年7月号(1)
①装飾を削ぎとりてなおあきらかに柩を運ぶ車とわかる 相原かろ 以前霊柩車はとても装飾が多かった。いつの間にか装飾が減ったが、本当にいつからなのだろう。最近霊柩車を見る回数が減ったように思っていたのはそうした訳か。主体はそれでもすぐ気づいているのだ。
②斜めにと帽子をかぶり笑む義母をその子の隣に飾りたり 𠮷川敬子 遺影となった義母。少し斜めに帽子をかぶり微笑んでいる。「その子」はおそらく主体の夫だろう。「隣に」ということは子の方が先に亡くなったのだ。直接描かれていないが主体の悼む気持ちが伝わって来る。
③メンタルが体を曲げてしまふからエゴン・シーレは眼(まなこ)をひらく 木村輝子 シーレの描く、少し体を捻ったような人物。メンタルのせいで体が曲がってしまったのだと詠う。モデルのメンタルを見据えるようなシーレの眼を、絵を通して主体は見つめ返しているのだ。
④左側は私の匂い 抱きしめて死後硬直を解(ほど)くみたいに 中森舞 いつもあなたの左側にいるから、あなたの左側に私の匂いが移ってしまった。その身体へ私を抱き寄せ抱きしめてほしい。私の硬くこわばった身体をほぐすように。「死後硬直を解く」という表現が魅力。
⑤ヘレボレス・ニゲルしろく俯きて惹きつけやまぬ純粋とう毒へ 永田聖子 ヘレボレス・ニゲルはクリスマス・ローズのこと。清楚な白い花を咲かすが黒い根には毒がある。俯きがちに控えめに咲きながら、その毒に惹きつける花。純粋という毒なのだ。結句九音が内容に合う。
⑥もう共に住まふことなき息子なりこの家のことは凡そ過ぎ行き 清田順子 下句に共感する。若い家族が次第に成長し、子供は独立し、家族という集団が老いてゆく。これからは子供の代の時代なのだ。もう主体の作った家族の歴史は凡そ過ぎてしまった。余韻のある歌。
⑦特集「田村雅之さんに聞く」砂子屋書房社主で編集者の田村雅之さんに1970年代~の現代短歌、詩、批評の話を伺った特集。編集者の立場からの歴史が聞ける貴重な特集だ。聞き手は吉川宏志。吉川で無ければ聞きだせない話も多数。
田村〈この頃にだんだん批評っていうのは力を失ってくるんですよ、文芸批評っていうのは。それで『磁場』が終わりになって、〉
吉川〈『磁場』って結構売れたんですね。〉
田村〈売れましたよ。四千部、五千部という感じだったからね。〉
文芸批評誌の発行数の話など、興味深かった。
2023.7.29.~30. Twitterより編集再掲