![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/153375353/rectangle_large_type_2_8cca21a9718cc4fe838bf778f580c405.jpg?width=1200)
ニコ・ニコルソン『呪文よ世界を覆せ 1 』(講談社)
売れない芸人が短歌で人生の逆転を目指す、そんな帯の裏の引用作者名を見ると、好きな歌人である前田透の名前があり驚いた。まさにイマな漫画の中に戦後活躍した歌人の作品が引かれているなんて。
そう思って読み始めたが、何とストーリーの中で、一番最初に引かれている歌は
手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が 河野裕子
だった!出会いの場面に引かれたこの歌はやはり美しく、絵とも調和してお互いに引き立て合っている。どんどん引き込まれて読んでいった。この1巻に引用されている作者は河野裕子、田谷鋭、前田透、枡野浩一、与謝野晶子、吉岡太朗、と縦横無尽。
マンガの言葉だけ引くのは妙なのだが、特に惹かれた言葉を書いてみる。
たった31文字やのにワシの中に隠れてた欲望や感情が引っ張り出される
「売れとる相方や後輩が妬ましゅうて そのくせ自分に力がないことには向き合えへん」(P67)
刺さる。自分に見えない、あるいは見たくない、裏の気持ちが短歌で引き出される過程にリアリティがある。
「5文字も7文字も世の中ようけある でもここに心を乗せなあかんのや 心… 心て何!? ムッッッッッッッッズ!!」(P118)
思わず笑ってしまったが、でもそうだよね。同感だ。心って本当何?
お笑いも言葉、短歌も言葉。マンガも絵と言葉。どれにも共通する表現の世界の喜びや辛さがしみじみ沁みた。
1巻の終わり方もうまい。次の巻がもう気になっている。
講談社 2024.5. 定価:税込759円(Amazonによる)