『うた新聞』2024年12月号
①描かれしクジャクの傍にしゃがみこみわれは老女に戻りゆきたり 松本志李 とても幻想的な歌。連作の最後の歌だが、連作自体は割と現実。一首前の歌で少年がクジャクを描いており、その傍にしゃがんだ途端、主体は老女に「戻る」。全てが過去であったかのようだ。
②松澤俊二「短歌(ほぼ)100年前 大正期、和歌・短歌初学者たちのこと」
〈入門書からわかることは多いが、特に興味深いのは、晶子や赤彦、薫園ら「新派」歌人の書籍ばかりが購入されていたわけではないことだ。ならば「旧派」か、というとそれも違う。「どちらも」がキーワードである。〉
鉄幹や子規が否定したからといって旧派が衰えたわけではない。ずっと並立していたのだ。その辺りは、松澤の著書『「よむ」ことの近代』にも詳しい。今回は初学者が求めること、という松澤ならではの鋭い切り口だ。入門書を見ればその時代の短歌作者、特に初学者のニーズが分かるから、ということだが、発想がコロンブスの卵。しかし大正期の入門書だけで43冊も出てたって、大正は15年しかないのに、1年に5冊近く出ている勘定だ。 それだけ需要があったし、書きたい歌人がいたということだろう。
2024.12.27. Twitterより編集再掲