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『まいだーん』vol.10

法律上死亡とみなす手続きを説明す その夫に、その子に 松本志李 職場詠。出奔して行方不明になった妻、母。彼女を死亡と見做す手続きを説明する主体。非情に見えても、仕事として淡々とこなすしかない。夫を子を置いて出て行った人の心情を少し思いながら。

夕方の色を見下ろす 十代を美化しないって心に決める 上澄眠 夕方の街ではなく、色を見下ろす、というのがいいと思った。高い所にいる印象だ。しっかり心に決めておかないと、十代をつい美化しがち。その時はそれなりに苦しかったはずなのに。

享年を知らないで知らされないでその作品と出合いたかった 上澄眠 一連は17歳で死んだ少年の自画像や詩がテーマ。自分の十代も重ねて見ているのだろう。上句の感慨はよく分かる。十代で死んだと思って見ると、その情報に作品への感想が左右されてしまうのだ。

春の日の雉のように軋むようにひとりのときは音がしている 上篠翔 「雉」「軋」む、が類音。それに導かれるような下句が面白い。一人の時に音がするのは自分の心の中だろうか。雉の鋭い鳴き声や、軋むような音だから決して気持ちの良い音ではないのだろう。
    「雉」「軋」む、だけでなく、この連作のタイトルが「弑する/思惟する/see-through」と同音類音異義語へのこだわりを感じさせる。言語の違いさえ乗り越えている。言葉遊びの要素も感じるが、何より耳の良い作者なのだろう。

2024.9.12. Twitterより編集再掲

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