
『うた新聞』2023年3月号
①マスクなしの顔を知らないまま別れゆくのであろう三月末に 岡本潤 本当にそうだなーという感慨。特に今年中学や高校を卒業した子らはそうだろう。知り合って三年以内に別れる相手はみんなそう。この人間関係は取り返しがつかないのだろうな。
今、これがありふれた気持ちに思えても詠んでおかないとすぐ忘れてしまう。例えば、コロナ禍の初期の変な空気感とかもう忘れてしまってる。短歌にしておけぱ実感を持って思い出せるのだ。
②人間のコスプレをして街をゆく定量的に好きと言ってよ 柴田瞳 自分を人間ではなく、人間のコスプレをしている存在と捉える。好きという気持ちは数字で測れないはずだが、それを「定量的に」表現して欲しいと望む。反転した自覚と願望が読む者の心に痛切に響く。
③海に行くは被災地に向かふことなりてたちまち風は海風となる 斉藤梢 海方面=被災地という把握が辛い。そんな人間の把握を他所に、海はただ海であり続け、海風を送ってくる。その中を歩く主体。布などが風にはためくバタバタという音が耳元で聞こえるようだ。
④商用車で避難してつひに戻らぬを出張中と言ひて十二年 小林真代 この歌を読んだ時の胸の詰まるような感じは他にちょっと無い。出張中、の語に込められたいたわりの気持ち。○○さんは出張中だからと言われつつ、(一連の他の歌から)その人は定年を迎えたのだ。
小林真代〈近頃は東日本大震災が話題になることはずいぶん減った。静かになったぶん、今まで聞こえなかった声が聞こえてくるようになった気がする。自分の声を大事に守っている人たちの小さな声が。〉
その声に私も耳を澄ませていきたい。
2023.3.22.~23.Twitterより編集再掲