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『現代短歌』2025年1月号

火砕流のような息子の現れて家ごと揺れたり膨らんだりする 前田康子 離れて住む息子が「現れ」た。一緒に暮らしていた時は慣れてしまっていたテンションの高さ。火砕流の喩えが巻き込まれっぷりを表現している。主体の心が家に投影されている。

ヘイトへの法律なきゆえ 放火という器物損壊のみへの実刑 前田康子 罪に当たる部分に罰則が無いため、明らかな犯罪に対してのみ実刑が科せられる。法律が無ければやっていいわけでもないのに。SNS上の犯罪など法律が追いついていないことは他にもあるだろう。

湯気のやう終はりし喧嘩ほんたうの折れる力を樹はもつてない 森山緋紗 消えるように喧嘩が終わった。全てを賭けて自分自身が傷つくことも怖れず、相手とぶつかる力を持っていないという自覚。樹は風や雪などで折れることはあっても自ら枝を折ることは無いのだ。

麦畑の麦ゆらす風わたしたち女神でゐたら神にはなれない 森山緋紗 女性を女神扱いすることはミソジニーの裏返し。そんな女神扱いは返上する。上句が柔らかいので意義申し立てっぽく響かない。神になりたいわけでもないしね。
 現代短歌社賞応募作品からの30首抄。名詞の使い方が華麗、だけど全体的に陰影が深い。他にも引きたい歌がたくさんあった。

2024.12.30. Twitterより編集再掲

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