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『フランス短歌』vol.3 2023
①生活を描かずと言いしボナールの裸婦の乳房は藤色を盛る 工藤貴響 生活を描く描かないという問題が絵画にもやはりあるのだ。肌の色として藤色と言われるとそこに画家の選択があったのだと気づく。絵は自然に見えるので、言葉にして初めてそれが意識される。
②手を握りひらいて握りまたひらくおさな子のごとき母のさよなら 美帆シボ 母の動作をたっぷり言葉をとって上句全部で表現する。母の手のひらの動きを愛おしむような上句だ。読者にもその掌が眼前する。母は今幼な子のように、言葉より動作が先んじているのだ。
③粉砂糖のかかっていないシュトーレンみたいに今年も終えてしまうの 山口文子 最近日本のクリスマスでも見るシュトーレンだが、「粉砂糖のかかっていない」という比喩が欧州滞在者ならではと思う。不完全ということか、物足りない程度か。いずれにしてもちょっとおしゃれ。
④鈴木フラマン裕子「クローデルと震災と『言泉』」
〈この時期に日本に在住し、震災の様子を記録に留めたフランス人がいる。外交官にして詩人、戯曲家、当時のフランス駐日大使であったポール・クローデルだ。〉
ポール・クローデル、大倉書店、落合直文、『言泉』。関東大震災当時の歌人の動向はいくつも読んだが、これらは全く知らなかったことばかりでとても面白く読んだ。クローデルが外交官だというのすら知らなかった。日本橋付近の震災前と後の写真にも思わず惹きつけられた。震災前の建築のモダンさは欧米の都市と見紛うばかりだ。
2023.12.21. Twitterより編集再掲