『うた新聞』2023年8月号
①舗装路の隅の小さな水溜まりハコベの花が水中に咲く 嶋稟太郎 雨の後と取った。舗装路と言えど凹凸があり、隅に小さな水たまりができている。その中に小さなハコベがあった。水に漬かってしまったのだが、ハコベがそれを選んだかのような結句の表現に惹かれる。
②松本志李「今が一番いいとき」
〈生活のなかで心に触れたものを見逃さずに「今が一番いいときだ。忘れないでいよう」と思って歌を作る。〉
うーん、何だかすごく胸に迫るエッセイだった。読後、自分は何で歌を作っているんだろうと自問してしまった。
③松澤俊二「短歌(ほぼ)一〇〇年前」
〈ひとつは、歌に専心していない、ということだろう。同書に表れる人々は歌のほかにも必ず複数の趣味を有している。〉〈二つめの特徴。彼らは歌に関わる活動を、他の趣味と同時に、並行的に、楽しんでいる。〉『趣味大観』
今から百年前の人々がどのように短歌を楽しんだか、だが、今とはかなり違う。短歌にというより物事に対して、と言った方が良さそうだ。何でも一筋に取り組むのが日本的態度と思っていたが、そうではなかったのだ。いつ変わったんだろう。しかし松澤の選ぶ本は専門家ならではだ。
④加藤英彦「短歌から戦争と平和を想う」
とりすがって泣く姿おもひ描きつつ仕掛けたのか、地雷を、亡がらに 松本典子
〈(…)ロシア兵は、敗走するときその死体に地雷を仕込んで逃走した。想像力が欠如していたのではない。十分に想像できたからこそ仕掛けたのだ。〉
松本の歌に臨場感があり、加藤の読みが歌を高めている。遺体に取りすがった人を殺傷するために遺体に仕込んだ地雷。人を傷つけるのに最適な方法を想像する、その想像力って何だろう。人間の能力の最悪の形であることを抉り出している。『ちょうちょ地雷』という本も思い出した。
2023.8.24. Twitterより編集再掲