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『うた新聞』2023年10月号
①高貝次郎「思慮深かった平福百穂」
〈アララギの著名歌人は悉く百穂忌歌会の講師として招いた。単身で百穂の墓参りに訪れた事のある土屋文明を講師として招いた時には、「百穂先生からは金銭的にも多大な恩義を戴いているから」と言って謝礼は受け取ってもらえなかった。〉
文明の振舞いかっこいい。アララギに限らず、時が経つと次第に数人の歌人しか話題にならなくなるが、その周辺に多くの支えている人がいたという事実。もちろん現在も同じだが。
②松澤俊二「短歌(ほぼ)百年前」
〈これらの文言からは、女性たちへの歌道普及にかけた信綱の真摯な情熱が確かに伝わる。しかし、一方で、和歌に盛るべき心情と、また和歌に携わるべき女性像を歴史的に取り出して理想化する彼の仕事の政治性も看取することが出来る。〉
佐佐木信綱『和歌に志す婦人の為に』について。政治性まで言えるかどうか分からないが、信綱が女性の短歌指導に対して、ある方向性を持っていたことがこの論から分かる。松澤の指摘は鋭い。
③松尾祥子「短歌トラベラー!アイスランド」
雪原を轟き落つる黄金の滝(グトルフォス)水しぶきはも氷柱となりて
〈ごおごおと落ちる滝の水が凍りついてゆくのもすさまじい迫力である。〉滝が落ちながら凍るのだろうか。地熱地帯の描写も良かった。行ってみたい。
④藤原龍一郎「玉城徹の歌」
夕ぐれのプラハの街を足ばやに役所よりかえるフランツ・カフカ 玉城徹 〈カフカがプラハの労働者障害保険協会なる半官半民の組織に勤めていたことはよく知られている。(…)このカフカの姿に歌人が自分自身を投影していることは言うまでもないだろう。〉
言うまでもないのだが、やはりこう言ってもらうと読みに納得感が深まる。うん、私もそう思っていた、的な。実はこの読みで気づいたのかも知れないが。
⑤藤原龍一郎「玉城徹の歌」
血しぶきをあげて街道の土のへに首は落ちたり為恭(ためちか)の首は 玉城徹
〈あえて冷泉為恭という数奇な運命の画家を歌材としたのは、どんな意味があるのか?(…)斬首され、その首が血しぶきをあげて、土の上に転がるというのは、芸術家の死に方としては、尋常なものではない。(…)〉
この歌も読みもとても面白かった。読みを深めて、作者の戦争体験にまで思いを至らせている。一連の編み方、一冊の構成にも言及しており、とても惹きつけれた論だ。
2023.11.2. Twitterより編集再掲