『塔』2023年5月号(1)
①まずは裏表紙から。「塔短歌会全国大会in福岡2023」。今年も去年に引き続き対面で開催!大会テーマは「口語と文語のあいだ」。初日9月9日は一般公開アリ。吉川宏志×栗木京子の対談、川本千栄×平出奔×山下翔+梶原さい子(司会)のディスカッション。ぜひ来て下さい!
「塔」の方は二日目もぜひぜひご参加を。まずはどこか宿を予約してください。これは急いで~!
②損切りという言葉さえ浮かび来る別れはすでに遠く乾いて 朝井さとる 損切りは株の用語。それで描かれる人間関係は冷えて乾き切った印象だ。この人と付き合って損をしたけれど、もう関係を断つことで終わりにする。関係を損得に還元する空しさは主体が誰より知っている。
③時間とは抱へるものとクスノキが言へばケヤキは放つものと言へり 金田光世 クスノキとケヤキの樹形の違い。こんもりと何かを抱えるようなクスノキと開放的に枝を伸ばすケヤキ。時間や記憶をどのように持つかは、その人の在り方に深く関わっている、とも感じられた。
④記憶忘却記憶忘却はぎとれば冬のキャベツの白太き芯 國森久美子 主体は料理中で、キャベツを剥いている。その時、心に呪文のように「記憶忘却」の語が繰り返し浮かぶ。覚えていたいのか忘れたいのか。もはやオノマトペだ。そして目はキャベツの芯の白さに出会うのだ。
⑤子のためにわづかに早くたたみたる仕事が疼くリュックの中で 澤村斉美 保育園のお迎えのためか、あと少しの仕事をたたんでリュックに収めた。たたんだのだが、お持ち帰り仕事として家でこなさなければならない。リュックを背負った時、中で仕事が疼くように感じたのだ。
⑥足腰の弱まるほどに強くなる吾の手をつかむ母の力は 梅津浩子 老いた母に縋るように手を握られて、ギョッとすることがある。どこからこんな力が、と思うほど、本人は足腰も弱まってよろよろしているのだ。それと反比例する手の力。母が主体を頼る思いの強さなのだろう。
⑦今さえがもう思い出の中のよう雪が静かに降っているなり 岩尾美加子 上句が情、下句が景、という一つの型なのだが、それでも上句の思いには深く心を衝かれる。何もかもが自分の中では過ぎ去ってしまった。全てが思い出の中のことのようだ。今、この瞬間でさえも。
⑧吉川宏志「青蟬通信」
〈私たちの心の中には、偶然を死者からのメッセージのように感じてしまう部分がある。そして、その偶然を生み出す力の強い人は、確かに存在しているように思われるのである。〉
じんと来た。論理では説明できないが確かにこういう思いを持つことはある。
「塔」のHPで5月号の吉川宏志「青蟬通信」全文読めるようになりました。ぜひ。↓
2023.5.22.~23. 29. Twitterより編集再掲