『塔』2024年1月号(1)
①享保の雛(ひいな)が見つめているものは我にはあらず背後の時間 三井修 雛人形を見つめている主体、否、雛人形に見つめられている主体、それも否。人形の眼は主体の背後の時間を見つめているのだ。人形の生の長さに気づいた時の、うすら寒いような感覚が伝わって来る。
②理(ことわり)は歌に非ずと子規の言えど我の詠みぐせ直ることなし 黒住嘉輝 歌はテクスト、作者と切り離して読むべきだという意見もあろう。でもこんな風に作者と密着している歌もいい。その作品を知ってたら思わず笑顔に。直さずこのままGo!三句六音にパンチ力。
③合わなければ途中でやめてもかまわないやっと気づきぬ本も映画も 岡本幸緒 私はこの主体と同じタイプの人間。途中で合わないと気づいても本も映画も最後まで付き合ってしまう。やめてもいいんだ…気づいているけどやめるって難しい。多分人間関係のことも詠っている。
④永田和宏「八角堂便り AIと連歌を巻く」
〈所詮有限の道具(→言葉のこと)を使って、無限の多様性に満ちたアナログの世界を、完全に表現し尽くせるものではない。わたしたちが持っている言葉は、現実の世界に対応するには隙間だらけなのである。(…)このような言葉というデジタル情報から、表現された内容を、さらに表現されていないものまで含めたアナログ情報を読みとることは、機械にはできない。〉 とても論理的にしかも平易に書かれているので、AIと短歌の問題がどのあたりにあるのかよく分かる。
永田和宏「八角堂便り AIと連歌を巻く」全文はここから読めます。↓
⑤君の母の腹に君産むための傷あり初秋(はつあき)のみず渡る蛇 空岡邦昂 母は君を帝王切開で産んだということだろう。君の母の傷を見た訳ではなく想像で詠っていると取った。結句の蛇はその傷からの連想で、傷⇔蛇というイメージが往還する。三四句の句跨りも印象的。
⑥ガザの武器イスラエルの武器どちらにもミッキーマウスが描かれていたり 仲原佳 どちら側の兵士も手慰みに絵を描いたらミッキーマウスだったと取りたい。まさか柄入りの武器ではあるまい。実際に描かれていたのではなく、どちらもアメリカ製という主体のたとえかも。
2024.2.8.~10. Twitterより編集再掲