『現代短歌』2024年7月号
①コワレゆく人の壊れるプロセスに母は素直なり初夏(はつなつ)の川 松平盟子 主体の母は川が流れるように素直に老いていく。それは人間としては壊れてゆくことだ。まさか自分の母がという思いと、やはりという思いが交錯する。その不本意さがカタカナ遣いに滲む。
②「特集 ガザ」
イスラエル派とパレスチナ派が鬩(せめ)ぎ合ひ世論激しく揺らぐイギリス 渡辺幸一 この特集の多くの連作の中で私にとって一番迫ってきたのが渡辺作品。まず「距離が近い」ということが大きい。そして日常生活の中にこの問題が根を下ろしている。
修辞が少なく、状況や心情をそのまま読んでいる作り方にも惹かれた。ガザ問題に深く関わる国に住み、知人と決裂する可能性や大戦の予感すら感じている。報道から作った歌ではなく、わが身の問題なのだ。この辺りにそうでない時事詠の困難さを感じてしまう。
③「特集 ガザ」
細谷実「ガザの正義について考える」
とてもよく分かる論だった。今まで結構漠然とした知識しか持っていなかったことが、かなり明確に分かったと思う。問題の起点がいつか、ということがそもそも分かっていなかった。報道に対する見方も変わるだろう。
④「特集 ガザ」
鳥曇黙して帰る 沈黙が加担にもなる日々だとしても 廣野翔一 渡り鳥が北へ帰り、曇り空だけが広がっている。そんな空と沈黙が重なる。沈黙することは強者に加担し、弱者を見捨てることになるとしても何も発することができない。共感できる心情だ。
2024.6.12. Twitterより編集再掲