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【ギリシャ神話:蜘蛛になったアラクネ】考察✒️彼女は、なぜ自死したのか?

「アテナ様がここに来て私と勝負すればいい」
アラクネが放ったセリフが引き金となり、二人の対決が始まります。

女神アテナは、技芸ぎげいつかさどる神。機織はたおりは、もちろん自分の管轄フィールドです。
対するアラクネは、ただの人間の娘。でも、並外れた技量を持っていました。人間だけでなく、妖精までが彼女の機織りを見物しに来るほど。

「素晴らしい。あなたの腕前は、女神アテナ様から直に授かったのですな」
誉め言葉で言われているのに、アラクネはムキになって否定しました。
「いいえ。私の腕は、私が自分で身につけたものです。神様なんて関係ないわ」

とうとう彼女の態度を見かねた女神アテナが、たしなめてやろうと腰を上げました。
老婆の姿に身をやつした相手に、アラクネが素のままで挑発し、バトルスタートです。

ディエゴ・ベラスケス「アラクネの寓話(織女たち)」1657

そして、機織り勝負が完了。
興味深いのは、どこにも「アラクネの作品が女神アテナの物より劣っていた」という記述が無いこと。
どちらも素晴らしい。甲乙つけがたい。
女神アテナの織物は、神々を描いたもの。「神様あたしって素晴らしい!」がテーマ。
対して、アラクネが織り上げたのは、ゼウス神が人間相手に繰り広げた、複数の恋愛模様。
正妻がいますから、要は不倫総集編なわけです。そして、ゼウスはアテナの父親。
あっぱれなケンカの売り方です。

だけど、その出来栄えときたら。技芸の神であるアテナには、他の誰よりもアラクネの実力が分かりました。
それがかえって怒りを増幅させます。リミッターが外れた女神アテナは、アラクネの布をズタズタに切り裂き、彼女の頭をさんざんに叩きました。さすがギリシャ神話、神様容赦ねえ。

耐えられなかったアラクネは、自殺。
さすがにそれを哀れんだ女神アテナが、魔法の草の汁を振りかけて、アラクネを蜘蛛に変えた。だから今でも、糸にぶら下がっているのですよ、というお話。

ルネ=アントワーヌ・ウアス「アテーナ―とアラクネ―」1706

でも、後半、なんか納得いかない。
どうしてアラクネは自殺したのか。

彼女は神様を信じていません。その相手から自分の作品を否定され、あげく破壊されたとしても、しおしおと嘆いて死ぬような玉ではないでしょう。
なにせ、自分から女神に勝負を仕掛けた娘です。怒り狂って、相手の織物も切り裂き返すんじゃないかな。

だから。きっとアラクネは、人に絶望したのではないかと思う。
それまでは、自分を誉めそやしてくれていた人、人、人……。
それが、女神がやって来て、自分を否定した途端。一人残らず、ころっと態度を変えて、口汚く罵ってくる。
身の程知らずな。神をないがしろにした娘よ。バチがあたって当たり前だ。

アラクネは、生まれつき才能があった娘。でも、女神に比肩するほどのレベルに達するためには、血の滲むような努力を重ねた筈です。一人きりで、若い日々を犠牲にして、ただ己の技量を磨き続ける……。
それが大勢の人に認められて、嬉しくて誇らしくて、「神様なんて、なんぼのもんじゃい!」状態になってしまった。

一瞬で、自分を支えていた城が崩れ落ちた時、彼女は死を選ぶしかなかったのだと思う。
なにやら現代にも通じるような気がします。


オディロン・ルドンが描いた「笑う蜘蛛」L'araignée souriante 1887年
こちらの絵画をテーマに、詩を書きました。

どこにもギリシャ神話のアラクネだとは書いてありません。
でも、私には、不敵に笑う娘に見えました。
「なんだ、冷静になったら、私ぜんぜん負けてなかったじゃない」


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