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ショートショート

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2024年10月の記事一覧

[ショートショート] まるでシャボン玉のように地球がぐんにゃり曲っている

[ショートショート] まるでシャボン玉のように地球がぐんにゃり曲っている

 地球がぐんにゃり曲がっている。

 まるでシャボン玉の表面で模様が動いて見えるように、ぐんにゃり曲がって見えるのだった。

 私は宇宙空間に一人で浮かんでいる。事故だった。

 後ろを向けば真っ黒な何もない空間。そちらを向くのは怖かった。ひと時も地球から目を離したくない。

 私はここで死ぬのだろう。

 朦朧とする意識の中で私はうっとりと地球ながめた。

 地球がぐんにゃり曲がっている。

 

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パラサイト・アブストラクション [逆噴射小説大賞2024]

パラサイト・アブストラクション [逆噴射小説大賞2024]

「それならばFに行ってみたら?」

 妻が言った。いや、かつて妻だったもの、と言った方が正確だろう。何しろそれはもう原型を留めていないのだから。

 それは赤いドロッとした塊だった。まるで溶けたチョコレート。

「Fか…」

 それ以上妻からは何の言葉も得られなかったので俺は家を後にした。

 F地区は歩いて二時間ほどの場所にある。

 得意なのだ。歩くのは。

 家の外は瓦礫の山だ。あれからもう

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[ショートショート] ミュゲのきもち [うたすと2]

[ショートショート] ミュゲのきもち [うたすと2]

 ゼンマイを巻く音がする。それは私の眼ざめの合図だ。

 私は自動慰撫人形ミュゲ。

 ミュゲという名はご主人様がつけてくれた。“ミュゲ” は昔の言葉でスズランを意味する。まるでスズランのように可憐で美しいからですって。

 ゼンマイの合図で起動した私はご主人様の表情を読み解く。甘えたような寂しそうな表情。
 この様子ではまた振られたのね。

「ミュゲ~。僕を慰めてよ~」

 私が目覚めると同時に

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[ショートショート] 転生林檎 - 幼馴染は輝いていて別世界の人だった

[ショートショート] 転生林檎 - 幼馴染は輝いていて別世界の人だった

 トモくんは足が速くて明るい子だった。

 ミキちゃんはお姫様みたいに可愛い子だった。

 シュウくんは何でも知ってる物知り博士だった。

 私はお絵描きが好きだった。

 幼馴染の私たちは仲良し四人組だった。

 小学校に入ると天才シュウくんは私立の学校に行き会えなくなった。
 ミキちゃんはテレビのお仕事をするようになってあまり学校に来なくなった。
 トモくんはスポーツ万能で人気者になった。

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[ショートショート] インフルチェンジ - ウチの彼ピはインプレゾンビ [うたすと2]

[ショートショート] インフルチェンジ - ウチの彼ピはインプレゾンビ [うたすと2]

 私は路地で暮らしている。

 薄汚いドブネズミみたいな私のお仕事は “インフルエンサー” だ。

 なぜ私のようなゴミ人間がインフルエンサーになれたのか、きっと信じてはもらえないのだろうけど、彼との出会いがきっかけだった。

 彼はある日突然現れた。

 この世にインフルエンサーを育むためにやって来たのだと彼は説明した。

 そして、私にひとつのスマホを手渡すと、まずは万バズを目指すのだと言った

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[ショートショート] 二人はいつも - Smply [うたすと2]

[ショートショート] 二人はいつも - Smply [うたすと2]

 ツイとレイはひとつの魂源を共有するふたつの思考だった。

 二人は長い時間をかけて、この四進法からなる奇怪なプログラムを解析してきた。

 それがついに今日、全ての解析が完了したのだ。

「これを見ろ。4はアンバランスだ。0と1のふたつで表した方が美しくないだろうか」

 ツイが言った。

「我々がこの言語に触れてからまだ数百年だ。長い目で見るとこちらの方がよいのだろう」

 レイが答えた。

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紙 - そして彼は選択した [秋ピリカグランプリ2024]

紙 - そして彼は選択した [秋ピリカグランプリ2024]

 両極は紙一重とよく言うけれど、神山辰人ほどそれを体現していた者はいないだろう。

 何しろ彼の場合は本当に紙一枚を隔てて静と動二つの人格が同居していたのだから。

 彼の脳には紙が挟まっていて、それを引き抜くと人格が変貌した。

 普段は物静かな彼だけど、紙を抜いた途端に情緒不安定となり破天荒キャラが突出する。

 僕はこっそりワル辰と名付けて区別していた。

 大人しい時の辰人は無害だけど退屈

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[ショートショート] タントラとはつまり機織りなのよ:インドを編む山荘

[ショートショート] タントラとはつまり機織りなのよ:インドを編む山荘

 山姥が出るとの噂の山荘に興味本位で来てしまった。

 山姥はいなかった。かわりにイカれた女がひとり。

 さっきからずっとインドの話しをしているが、放漫な胸元に目が行ってしまい全く話が頭に入って来ない。

「タントラはサンスクリット語で縦糸を表します。つまり、縦の糸がわたし、横の糸があなたなのです」

 なんかどっかで聞いたようなフレーズだが、つまりこの女は悟りの話をしているようだった。

 真

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