信長の革命と光秀の正義 真説本能寺 安部龍太郎
誰もが知っている織田信長。そして、本能寺の変。中学の歴史の教科書にも出てくる信長の「事実」にもまだまだ隠されている秘密が山ほどある。筆者は、小説家だが事実関係を丹念に調べ、ぎりぎりまで事実と思われることを文章にしていき、小説を作り上げるスタイルを貫く安部龍太郎氏。今回は小説ではなく歴史家にも挑戦するように、新書として織田信長とその背景に迫っている。
過去の歴史は、その後の為政者により完全否定され、黙殺されていくということは当然のことでありそれ以前の事実はなかなか検証されにくい。そのことが検証されずにいた一人が織田信長なのかもしれない、そう思わせられるには十分な証拠が列挙されている。
これを読んだ読者の感想は様々想定できるが、歴史というのはどうにも奥が深い。この本の主人公はもちろん織田信長だが、もう一人「近衛前久(このえ さきひさ)」という、さほど名前を知られていない人物もまた主人公。朝廷、足利将軍側を代表する人物で、彼が本能寺の変の黒子であるとしている。
前久は、藤原道長のながれをくむ近衛家の生まれ、足利将軍の従兄弟でありながら公家の最高地位「関白」に18歳でその地位を得た。これだけでもこの人物の面白さというものが想像できようというもの。さらに、上杉謙信とは盟友関係にあり、秀吉を猶子にし、徳川家の創姓、織田信長とも鷹狩友達と列挙するだけでも歴史の裏側で確たる実績を挙げ続けている。
もう一つの面白い視点は、世界の中の日本という国をイエズス会、スペインとの関係でとらえていること。この視点は筆者は他の著作物でも取り上げているが、この一冊はその集大成ともいえる。その後の秀吉、家康の鎖国という歴史により日本の歴史家の視点からは当時の世界史とのつながりは抜け落ちてしまったという。
歴史家の専門書にはどうしても専門家の読みづらさというものが付きまとい正直、読みづらい。だが、小説家でもある安倍氏のこの1冊はワクワクして読み進めることが出来る。
これまで歴史に興味がなかった人、信長を知っている人、歴史が面白いという人の心がわからない人のためにも、お勧めしたい一冊。
歴史はエキサイティングだ!
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