丁寧に歴史の事実を調べることを積み重ね、小説に仕上げていく手法が作者の持ち味と思っていたがこの本についてはそうではない。時代は、遣隋使まで遡る。事実を調べ上げていくことは非常に困難を伴う。そのため、仮説を土台とせざるを得ないが、その仮説があたかも事実であるように感じられるストーリーとなっている。しかも、作者には珍しく、最後の結末は切ない。 時代は先ほども述べたように、遣隋使を派遣する厩戸皇子(聖徳太子)の時代。舞台は福岡県宗像と朝鮮半島。主人公は、疾風(宗像一族の王子)
「スクールロイヤー」という言葉がどれくらい浸透しているだろうか。最近よく耳にすることがある、というわけではない。しかも、そのスクールロイヤー自身が書いた一冊だ。ほとんど知らないが子どもの教育には関心の高い人も少なくない。教育の現場に何が起こっているか知りたくてこの本を手にした。 「学校は大変」ということはよく耳にする。子ども問題の複雑さ、勉強すべきこと自体の混乱、家庭をはじめとする環境の多様化。教育への期待が大きいだけにやらなければならないことは年々増える一方だが、先生の人
誰もが知っている織田信長。そして、本能寺の変。中学の歴史の教科書にも出てくる信長の「事実」にもまだまだ隠されている秘密が山ほどある。筆者は、小説家だが事実関係を丹念に調べ、ぎりぎりまで事実と思われることを文章にしていき、小説を作り上げるスタイルを貫く安部龍太郎氏。今回は小説ではなく歴史家にも挑戦するように、新書として織田信長とその背景に迫っている。 過去の歴史は、その後の為政者により完全否定され、黙殺されていくということは当然のことでありそれ以前の事実はなかなか検証
葉室氏の小説は、清々しい読後感が得られる。この小説にもそれを期待して手にしたが予想に違わず清々しい気分を得られる。「辛夷の花」の花言葉は友情、友愛、愛らしさだが、子どもの手の握りこぶしにそのつぼみが似ていることからも名づけられている。その「辛夷の花」は何を意味するのか。 主人公は、豊前小竹藩勘定奉行の長女、志桜里(しおり)。こちらも花にちなんだ名前でなんとも穏やかな名前。志桜里は嫁いで、3年経つが子どもが出来ずに離縁され実家に戻っている。その実家の隣に越してきたのが「抜
大村秀章愛知県知事の解職請求(リコール)で不正署名が大量に見つかった。リコールを主導したのは、医師高須克弥氏と河村たかし名古屋市長。不正というのは、アルバイトに佐賀市で署名を大量偽造させたというもの。8割以上が県の選挙管理委員会より無効とされ大半が偽造と。請け負った名古屋の広告代理店によると、アルバイトの募集はリコール事務局が依頼したものだ。 広告代理店はクライアントより依頼があれば、その問題を解決しようとして様々な手を使いなんとかやってのける。しかしながら、今回のこの問題
歴史小説を読んで笑えたのは初めて。葉室氏のユーモアがあふれている作品であり、読んでいる間は歴史小説というよりも吉本新喜劇の人情モノを見ているような錯覚に陥った。 舞台は巨勢川。同じ名前の川が筑後には存在するが、その名前を使ったものと思われる。主人公は、伊東七十郎。綾瀬藩で一番の臆病藩士と噂されるという設定。どういう訳か、藩命により刺客として家老を撃つ役割に抜擢される。その巨瀬川は雨のために川が増水していて渡ることができず、足止めを食らう。しょうがなく言われるがままに泊ま
よく分からないことが多かった鎌倉幕府から室町幕府にかけてのごたごた。私にとって「なぜ?」が多いのがこの変革期。現代も同じように変革期であるからこの小説を手にしたような気もする。 主人公は、新田義貞。彼は、この時代では足利尊氏、楠木正成、後醍醐天皇、そして新田義貞と4番目のヒーローか。筆者、安部龍太郎はこの小説でも史実を丹念に調べ上げ、その上で新田義貞という人物に迫り小説に仕上げていく手法をとっている。この小説があたかも事実であったかのように感じてしまう筆力は流石。歴史を理解
歴史に不思議は山ほどあるが、古代については解らないこと、疑問、古墳の解明が進まないこともあり想像を掻き立てれば搔き立てるほど面白いストーリーが出来る。 著者、草野善彦氏は古代に関する著書が豊富ではあなるが学界からはさほど重要視されていないようだ。これまでの古代史観を覆すような著作が多いために仕方がないのかもしれない。反論の対談も見当たらず、残念である。学者先生の反論はぜひ聞いてみたい。 草野氏の説は、大和朝廷と九州の邪馬台国の流れを引いた倭国は別の系統であり、九州こそ
著者は、APU学長、ライフネット生命の創設者。『日本を救う「とがった人を」増やすには』がサブタイトル。日本の閉塞感を救うことが出来るのは多様性、そして尖った人物が増えることが必要だと訴えている1冊。 読書前は、さほど出口氏を知らなかったが、APUが面白い学校である、多様性と国際性の大学ということは知っていた。その多様性とは何かということが理解できるし、氏が目指す多様性について理解が深まる。学長であるということもあり、当然、学生についても理解が深い。APUに入りたいという
幕末というと、新選組、坂本龍馬、白虎隊、徳川慶喜、西郷隆盛、坂本龍馬挙げるときりがないくらいの綺羅星が輝く。そんな中、作者が筆を執ったのは徳川幕府最後の海軍。主人公は開陽丸艦長・沢太郎左衛門。名前は知られていないが榎本武揚の盟友として活躍した人物。実際に存在した人物で、勝海舟と袂を分かつがどうしても武士として守らなければならいないことがあり、戦うことではなく、幕臣の北海道の開拓を行う許可を求めるため、最後まで榎本武揚と五稜郭、室蘭で戦い続けた。 これを小説に仕上げる見事なス
大坂夏の陣、淀殿と秀頼の物語。一般的には、秀頼のひ弱で頼りないイメージが広がっているがそうではないことを実際の文献をもとに忠実に追って行った小説。 淀殿については錯乱して徐々に判断が全くできなくなっていく様子が生々しい。戦をする準備がない者が戦をするといかに脆いか、また赤子の手をひねる用に容易く絡めとられるか理解できる。人間ぎりぎりの瀬戸際まで追いつめられると胆力がものをいうし、その人そのものが如実に出てくるものだ。 大河ドラマ等では淀と大阪城の落城とともに秀頼は亡くなっ
主人公は黒田藩栗山大膳、歴史では黒田家3代藩主忠之とのお家騒動で有名な人物。その黒田騒動を題材に小説としたのがこの一冊。脇役として登場するのが夢想権之助と宮本武蔵、そしてこの時代の将軍家光と聞くと不思議な印象を受ける物語。 これが葉室麟の手にかかると見事な小説となり、栗山大膳の半生を描いている。しかも、鬼神、もののふとして黒田家を建て直す小説である。 大膳については、忠臣、逆臣いずれの見方もあるようだが忠臣とすることによって、黒田騒動は美談となり、なかなか歴史に現れること
好きな戦国武将の一人や二人、多くの人が持っているはず。でも、意外と知らないことも多い。この時代に興味がないという人は残念でしょうがない。それは、自分の生き方を学ぶことが出来る、しかも、現在よりも苛烈に、激しく命を燃やさなくてはならなかった時代に生きた人々は、それだけでも今に生かすことが出来るものが必ずある。 この本で扱っているのは、毛利元就、三好長慶、武田信玄、上杉謙信、織田信長、細川藤孝、前田利家、島津義弘、豊臣秀吉、伊達政宗、藤堂高虎、徳川家康。安倍龍太郎は久留米出身だ
読書は、同じ作者のものを一度に複数読むことが良い。作者の特徴が非常によく理解できるからだ。 葉室氏の作品の中でも泣かせる作品。しかも、激しく泣ける。一方で、切なく、さわやかで、晴れ晴れとした余韻が残るのがこの作品のすばらしさ。主人公、伊吹櫂蔵(通称:襤褸蔵)の人生再生物語であり、お芳の再生物語。必ずしもうまくいくことばかりではないのが人生。むしろうまくいくことばかりの人生を送ることが出来た人などいるはずもない。そんなうまくいかないときに読むことで思い切り涙し、清々しさをもう
やはり、森喜朗。1937年生まれ83歳。問題となった発言は3日、「女性が入っている理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言いますが、ラグビー協会は今までの倍時間がかかる。」これだけでも、大問題だが、さらに4日の記者会見が火に油を注ぐ。「だから撤回」「邪魔なら掃いて」森氏の立場は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長。 そんな会長を、組織委員会は慰留する。慰留したのは武藤敏郎事務総長ら。森氏は「みんなから慰留されました。いま会長が辞めれば、IOCはかえって心配する
主人公、秋月藩、臼井六郎。父臼井亘理を幕末の騒乱の中で殺害され、最後の仇討ちを行ったという史実を基にした小説。史実としてこれがあったということも知らなかった。しかも、地元秋月藩での出来事。葉室氏の小説は、すがすがしと、憐憫とが混ぜ合わさる不思議な感覚となる小説が多いが、この小説もそうしたもの。 幕末の騒乱機に殺された者、殺した者、彼らの感情は明治の御一新でなかなか片づけられるものでもない。天皇の世の中となったからといって、すぐにはいそうですかと得心できるものでもない。今の時