劇伴は新たな音楽の可能性だ!!ハートカンパニー「音楽熱想」第961回、サイキック(斎藤滋・菊田大介)対談より
映画やテレビドラマ、演劇、アニメなどの中で流れる音楽を「劇伴」と言います。こう書いて「げきばん」と読みます。何だBGMの話か…と思った方もおられましょうが、この劇伴が我が国における新たなコンテンツビジネスの鉱脈になるかも知れません。今回はそんなお話をします。
ハートカンパニーの「音楽熱想」サイキックとは
このテーマにて熱く語るのは、アニメ・ゲーム関連の音楽制作で名を馳せた株式会社ハートカンパニーの社長、斎藤滋氏と、音楽制作ブランドElements Garden所属の作曲家、菊田大介氏です。斎藤と菊田でふたり合わせて「サイキック」。ハートカンパニーがstand.fmにてお届けする番組「音楽熱想」土曜日レギュラーの雑談ユニットです。
「涼宮ハルヒの弦奏Revival」その新たな試み
今回この記事で取り上げている「音楽熱想」第961回放送は、今年1月20日(土)に行なわれた人気アニメのオーケストラコンサート「涼宮ハルヒの弦奏Revival」にてハートカンパニーが実施した取り組みがテーマとなっております。すなわち、以下の通りです。
これらについては私のnoteでも触れております。
よろしければ。
ということで、今回は番組からの引用が中心となりますが、音楽制作会社であるハートカンパニーの斎藤社長と作曲家の菊田大介氏による対談を元に、アニメ劇伴の持つ可能性を紐解いていきたいと思います。
① 劇伴はアニメ業界における新たな金脈?
サントラってそんな売れてないんだ…知らなかった。
私は昔からゲーム好きでして、ゲームミュージックの音楽アルバムを買っていた流れで好きなアニメのサントラ集にも手を出していたので、あぁいうのもっと売れてるのだと思ってました。
ただ自身を鑑みても、確かにここ最近声優の歌のアルバムは買っていても、アニメのサントラは久しく買っていないような気がします。そうか、私みたいな人が増えたためなのか…?
私的感覚ながら、昔に比べたらアニメ趣味が割と大っぴらに公言できるようになり、それに伴ってアニメ作品の制作本数も増え、グッズなどの販売も充実してきたように思うのですが、それなのにアニメサントラが売れなくなってきているというのは私からしてみたらとても意外です。いや昔から売れてなかったよって言うんならまだ分かるのですが。
劇伴を作っている方の立場に立ってみたら、確かにやるせないことでありましょう。苦労の末に制作した音楽が作品の放映終了と共に聴かれなくなってしまうというのは如何にも残念です。そこに何らかの形でスポットを当て、その音楽を聴いてもらうことで楽曲もアニメそのものもあらためて楽しんでもらうことが出来れば、こんないいことはありません。さらにそれが新たなビジネスチャンスを生み出すとすれば、ファンも作曲家も制作会社もみんな喜ぶ。三方一両損ならぬ三方良しというわけです。
過去作品の劇伴を現代に蘇らせること。それはアニメの音楽に長年携わってきた斎藤社長の作品に対する愛と作曲家へのリスペクト。そしてハートカンパニーのアニメ音楽制作会社としての使命感によってこれを具現化したと言えるのかも知れません。
② 演奏に映像を背負わせることのハードル
「これ他の会社じゃたぶんできません!」…って、すげぇ自信。この後の放送でも斎藤さんは
って言ってますから、その自信のほどが伺えます。
この対談内容をあえて細部まで載せたのは、斎藤さんの自信の根拠をお伝えしたかったというのもあります。演奏のバックにBGMを流す。一見何でもないようなこと(失礼…)ですが、実際にビジネスベースで考えると様々な壁が立ちはだかるのが容易に想像できます。
第一の壁、権利。
テレビや映画で放送されたコンテンツは、勝手にどこででも放映して良いものではありません。ほとんどすべての素材には、次のような注意書きが添えられております。
上映どころか、無断で公開演奏もダメだってさ。
これは脅しではなく、現実に「ハルヒ」シリーズと同じKADOKAWAのコンテンツを無断アップロードしたとして逮捕者も出ております。人によっては以下のニュース(インターネットによる公衆送信に該当)が記憶に新しいところでありましょう。
では、貴方が特定のアニメ映像をどこかしらで上映したいとき、どこの誰にお伺いを立てれば良いでしょうか?そして一体いくらくらい払えば、それは可能になるでしょうか?
KADOKAWAの場合、このようなお問い合わせ窓口があります。が、さすがに興味本位でこのようなことを問い合わせるには忍びない。そもそも問い合わせるところはホントにここでいいの?何て聞き方すればいいの?見積りだけ取るんじゃ申し訳なくない?それに製作委員会とかには根回ししなくていいの?いやむしろアニメなんだからまず京アニさんなんじゃないの?あー、もう!!こういうこと、斎藤さんに聞けばそれなりに確度の高い回答が帰ってくるんだろうなぁ…。
そう、まさにそのように思ってしまうことこそが、斎藤社長がこれまでに積み重ねてきた業界の経験値なのですよ。
特定のコンテンツを任意の会場で上映したい。その際にどこの誰にどんな問い合わせをすればいいか。おそらく斎藤社長なら(少なくとも斎藤社長が関わられた範囲で)それらに対する回答を持っています。と言うより、誰もが「この人に聞けば間違いない」と思っています。アニメ・ゲーム業界にてコンテンツプロデュース業として積み上げた信頼と実績。これは強いですよ。むしろこの方の存在自体がハートカンパニーのコンテンツです!!
第二の壁。誰がやるの。
権利の壁を無事突破できたとします。じゃあ次はアニメ素材を演奏する音楽の尺に合わせてどう切り替え、編集していくか。映像とは言えそのとき鳴っている劇伴のタイミングに合わせてより効果的な映像が流れていなきゃ意味がないことは対談で述べられている通り。これはもう、演奏+映像じゃなくて、むしろ映像も演奏の一部みたいなもんですよ。すなわち演奏+演奏みたいなもんですよ。
誰がやるの?
「涼宮ハルヒの憂鬱」は全28話です。だいたい30分もののアニメ作品は24分映像のことが多いので、24分×28話=672分=11時間12分です。これにあと劇場版「涼宮ハルヒの消失」も加えるなら、あれ2時間 44分だそうなので、足すと13時間56分。まぁざっくり言っておよそ14時間ですな。
誰がやるの?
14時間ある映像を全部見る。それもただ見るわけじゃない。演奏される音楽の演目を頭に入れた上で、どの絵がどこに使えそうかを分析する…おそらくデータベース化もしなきゃならないでしょう。ファン心理に立って、どの音が鳴ってるときにどの絵が出てたら最も嬉しいか…。
誰がやるの?
私がやるの?
いやーこれしんどいですよ。普段仕事にてPremiere Proで映像のカット編集してる私からしても、これやれって言われたらかなり「うわーっ!!」ていう仕事であることは容易に想像がつきます。私も「ハルヒ」シリーズに限って言えば映像化されているものはだいたい見てはいますが、濃密なファンの期待にそこまで応えられるかって言ったらとても自信がありません。
たぶんこれ、ファンが満足するようにやり切るってなったら「ファン心理に立って」とか言ってる時点でダメなんですよ。それじゃ圧倒的に足りないんです。むしろファンが編集してることが望ましいんです。ゴルゴ13みたく「仕事だ…」みたいな姿勢で取り組んでたら、作品に対する愛の薄さを顧客に見透かされちゃうんですきっと。斎藤社長が仰る「アニメへの愛が必要」っていうのはそういうとこなんですよ。だからこの仕事は「アニメコンテンツに強い会社」がやらないとダメなんです。
こういうことを言うと「マニア気質を前面に出してる奴には任せられない」というような方が必ずいます。確かにマニアなだけだったらダメでしょう。しかし、ある種の仕事はそれを達成する際に、対象に対する愛が求められることがあります。これは私自身の経験も上乗せして言いますが、クリエーティブの世界は特にそう。あることに妄執的なこだわりを持っていることで、成果物の質が爆発的に上がることがある。世の中にはそういう仕事が本当にあるんです。これは経験したことがないとなかなか分かりません。
そんな愛を持った方がいますか?
または、そんな愛を持った方を連れてこれますか?
そんな人たちを、何人知っていますか?
「ウチだけ!!」って言える斎藤さんのこの自信は、こうしたことに裏打ちされているのでしょう。どんな業界もそうですが、「ウチだけ!!」っていう何かを持っている会社は、強い。
③ これからの劇伴演奏は映像とセットに
まんま引用しますけれども、
…というのが本件の最適解であると思います。
というか、「むしろそうなってなかったんかい!」と業界素人な私としては思ってしまいますが、これはアニメというものが音楽と映像で別々に権利を処理しなくてはならないところに、その難しさがあるのでしょうね。
そう、とにかくコンテンツは契約条件ありきなんですよ。
なので、今後は劇伴を題材にしたコンサートが多く行なわれると予測されるのであれば、契約時にそこを含んだ条項を入れておくこと。それが何よりであると私も思います。
ただし、そのあたりをどこまで許諾するかについては基本的にコンテンツホルダー次第ですので、座組(ここで言う座組とは、おそらく製作委員会クラスの話なのだと思いますが)の段階でそのような目論見を明言しておくべきでしょう。それを主張できるのは、やはりこうした実績を持っているところなのかなぁと。
アニメキャラのコラボやグッズ制作・販売などの横展開がビジネスモデルとしてスタンダードになっている現在、劇伴コンサートも次第にファンの中で市民権を得ていく流れが見えています。ならばそこに対象の映像もセットであるべきという流れもまた必然であり、そこに向けた契約面の整備は重要なmissionになるのではという気がしています。
…や、何か業界人でもないのに好き勝手言い過ぎてるな私。
④ 演奏され続けることで、作品が人の心に残る
アニメ作品が新作作られ過ぎて飽和状態になってるって言われて、もう何年くらい経ちましたかね…?
いつからそう言われるようになったのか。作品供給量の推移はどのように変化したのか。本記事の目的はそれを解明することではないのでここでは深く触れませんが、一般論としてアニメ作品が供給過多に過ぎることは論を待たないと思われます。ラノベの隆盛に伴い、原作ものが数多く作られるようになったこともその要因として挙げられるかも知れません。
それ自体は良いことか悪いことかって言ったら、まぁお客側の立場にしてみたら良いことって捉えとくべきなんでしょう。それだけ選択肢が増えたってことですからね(作ってる側がそう思ってるかは知りません)。
ただ、一方でこうも思うのです。「以前よりもひとつひとつの作品に対する接し方がおざなりになってきてるなぁ…」と。
日々の暮らしが忙しくてアニメに費やす時間が減ったから?
そうかもしれません。
観たい作品が多すぎて同じ作品を何度も見なくなったから?
それもあるかもしれません。
(…いやそれどころか、観たくても一度も見てない作品とかあるぞ私)
何が言いたいのかっていうと、昨今はアニメの作品数は増えたけど、それに対してアニメがだんだん心に残らなくなっているぞ…と。
いかんいかん!!
そんなことではアニメファンとは言えないぞ!!
昔は人前でアニメ好きなんて口が裂けても公言できなかったんだから、その呪縛から解き放たれた今、だいぶ遅れてやってきた青春時代を存分に謳歌しないと!!ねぇ私!!ねぇ!!ねぇ!?
分かってるんです。いまは私が学生だった頃に比べると、特にアニメを巡る環境に関して言えばとても恵まれています(学生の頃が何歳だったかについては禁則事項です)。作品も増えています。アニメに愛を注げる環境は十分すぎるほど整っているのに、何故私はいま、制作者が心血注いで作り上げた作品に対して、その程度の愛情しか注げないのかと。
さっき「アニメがたくさん作られていることは良いこと」って書いたけど、本当に良いことなのかどうか、良く分からなくなってきました。でもそれはアニメ業界のせいではなくて私のせい。それだけは分かっています。
でも自省する一方でこうも思うのです。
似たような人、いっぱいいるんじゃないのかなぁ…と。
もしもですよ。
そういう人がたくさんいるのだとして。
新作アニメがシーズンごとにたくさんリリースされているのにも関わらず、私たちの心に残る作品が少ないと言うのなら…それを再び心に灯し、人生の思い出として鮮やかによみがえらせる鍵は音楽、すなわち劇伴演奏が握っているのでは…!!
(いつもながらに強引な論理展開だなーオイ!!)
斎藤社長が仰った「消費され過ぎる」っていう言葉が私的に心に刺さりまくってしまったので、そこに随分行数を割いてしまいました。
図星を突かれました。
いや秘孔を突かれました。
ひでぶです。いやむしろデブです。
まぁそこはどうでも良くて!!
健康診断までには痩せるから!!
こないだ私、「涼宮ハルヒの弦奏Revival」行ったんですよ。
そんであまりにも感動してこんなnote書きました。
何が感動したって、私、音楽が鳴った瞬間にアニメの内容から見てた当時の自分自身の暮らしまで、何もかもすべて思い出してしまったんです!!
演奏始まるまで「涼宮ハルヒの憂鬱」にBGMなんてあったっけ?とか思っていたのにですよ?(作曲者の方超ごめんなさい)
それはあたかも、記憶喪失になってた人が何かのショックですべてを思い出したかのような出来事でした。
「マンガみたい」とはまさにこのことです。
いやもうホントに驚いたもんで。
信じられないかも知れませんが、音楽にはそういう力があるんです。
でもこれだって、演奏される機会があったからこうして記憶の奥底から呼び覚まされたわけです。そういう意味では演奏されること大事。繰り返されること超大事。
みのりんの「Paradise Lost」の例えもそうで、何度も繰り返し歌われることで、定番と呼ばれるほど皆の記憶に残るものです。
なので斎藤さん、その…よろしければ「ひとひらの願い」も繰り返し歌ってもらえるよう、それとなくみのりんに電波送っといてもらえたら私的には嬉しいなーなんてw
何となくオチがついたようなので、そろそろ締めに向かいましょう。
引用部分含めて、もう1万文字超えちゃったよ。
いつもながら冗長で、斎藤さんのラジオみたい(こらこら)。
「音楽熱想」皆様もどうかぜひ!!
ここまで斎藤社長と菊田さんの対談を紹介しつつ、私の思いなどを綴ってきました。いやでも、それだけ語りたくなるくらい、熱い想いのこもった放送だったのですよ。もう一度リンク貼っておきますね。
ちなみにここまで読んでくださった方のためにネタバラシしちゃいますと、この放送の中でどこかの誰かさんによる「X、SNS、noteに!書いてね!」って天の声が聞こえてきたような気がしまして(笑)。
…え?いまnoteって言わなかった?
気のせい?
これまさか、私に話しかけてるわけじゃないよね?
(自意識乙)
そんなこんなでこうなった次第なのでございます。
いや当初は10行くらい書いてお茶を濁すはずだったのに。
どうしてこうなったのだろう…。
「繰り返されることが大事」って斎藤社長も仰っているので、私も繰り返します。
「音楽熱想」皆様もどうかぜひ。
「音楽熱想」皆様もどうかぜひ。
音楽制作、コンサート制作、振り付け、その他音楽に関するご相談はこちらまで。今後は劇伴コンサートや海外進出にも力を入れていくそうです。
(了)