救われない心地よさ
山下紘加さんの『あくてえ』を読んだ。
言葉を、なんの遠慮もなく投げつけてくれる本だった。
投げつけられる言葉を眺めながら、
投げつけられている痛みを噛み締めている時間は、
今の暮らしの中で
とても大切な時間となった。
幸せになりたいと思うし
できれば楽して生きていきたいとも思うけれど、
情熱を失うことへの不安が頭を埋め尽くして
素直に楽な状態を受け入れ続けることができない。
傷つくことに慣れてしまったんだろうか。
物語が無理矢理きれいにまとめられて
そんなうまくいかんやろエンドで終わったときには
結局フィクションだったな、という(実際フィクションなのだけれど)、
作品に突き放されたような気持ちになってしまう(もちろん、作品が持つパワーやリアリティによって美しすぎる結末を美しすぎるまま受け止めさせてくれるものもある)。
だから、
苦しみ続けるべきだ、と
どこかで信じ続けている自分の心に、
純度があんまりにも高い怒りを、
なんの遠慮もなく、最後まで投げつけてくれる心地よさ。
それを自分はたまらなく欲していたのだと感じた。『あくてえ』をよんで。
生活は、ずっとずうっと、つづいていく。
だから人は、覚悟ともあきらめともつかないようなものを抱えながら
生活を営んでいくのだろう。
山下紘加『あくてえ』河出書房新社 2022年