今野 元 (著)ドイツ・ナショナリズム-「普遍」対「固有」の二千年史 書評
トイトブルクの戦いからメルケル引退まで網羅しているにもかかわらず、もう、学習指導要領的ドイツ史観を見事に洗い直してしまって、最新の筆者の知見を紹介しているという、密度が高い本です。
そもそも従来の歴史用語(地名から党名まで)、全部みなおしてる。
エステルライヒ、シュヴァルツ、ベートホーフェンなんて序の口。
フランス革命なんて完全に相対化。
ローマ帝国(断じて「神聖」を頭につけない)は、ドイツナショナリズムの萌芽ではあるが実はヨーロッパの「普遍国家」志向、時代は下ってアメリカもソ連も「普遍国家」をめざした点では同列と。
メッテルニヒは反動主義者ではない、3B政策など存在しなかったとか。ゲーテがいかに後世、政治的に持ち上げられ、利用されていったかとか。
私はドイツナショナリズムがナポレオン戦争ではじめて顕在化したと思っていたのですが、はるかに遡れることについての文献的解説もあります。
マックス・ウェーバーの立ち位置についても、ちょうどウェーバー読んだばかりだからおもしろかったです。リベラリストとしての面よりナショナリストとしての面が強調されている。
ナチス(これまた意地になってNSDAPとしか呼ばない)時代については意外とあっさりしてます。
世界史ではほとんど全く教えない、戦後1960年代までの東西ドイツがそれぞれいかに屈折したサバイバルし、路線転換して復活していくかについてむやみとくわしいです(本書の後ろ半分を割いてる)。
ハーバーマスやマイネッケ、ドイツ歴代首相政権の位置づけもおもしろい(これまた見事に醒めた見方でもあるんですが)。
今wikipediaで調べたら、著者は、ウェーバーが特に専門みたいですが、とてもそんな枠ではでは捉えきれない学者みたいに思います。ドイツ史全体の新鮮な俯瞰能力が半端ではない気がします。
1972年生まれ。2021年フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞。
ほんとに油に乗っている人なのだと思いますが。
著者があとがきで触れていることにもつながるが、この本、ドイツ史についての事前理解の要求水準は高いと思うが、幅広い層に読まれるべきと思う。
ドイツと同じように、デモクラシーの興隆のあとで全体主義を経験し、連合国主導の民主化を経て西側陣営に組み込まれ、最近になると排他的ナショナリスト勢力が復権している国の在り方として。
特に左派リベラルは、自分が無自覚的にとりいれている、欧米的価値観を「普遍」とみる傾向をとれだけ対象化し、点検できるかどうか。
それは単に発展途上国や中国・イスラム圏との多文化・多制度的共存という問題にとどまらず、右傾化と日本的国家主義の復権にいかに対峙すべきかという問題が、一筋縄ではいかないことにもつながるかと思います。
本書は今年の出来事まで記述におよび、安倍政権や管政権のことまでさりげなく出てきますし。
さらに補筆したい気持ちもありますが、ともかくドイツを「ネタ」に、むしろ「日本の」現状を点検する本としてお勧めしたいですね。
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