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チャーメインと魔法の家(ハウルの動く城3)感想_混沌とした問題がまとまるファンタジー

『チャーメインと魔法の家』はダイアナ・ウィン・ジョーンズによる『アブダラと空飛ぶ絨毯』から2年後の物語。作品自体の発表には前作から18年もの期間を空けて20008年に発表されており、『ハウルの動く城』シリーズの3作目となる。
お馴染みのハウル、ソフィー、カルシファーは中盤以降に活躍するが、主人公は前2作と異なる新キャラクターの女の子となっているためか、続編というより姉妹編の位置づけとなる。
以下、ネタバレを含む感想などを。

本好きの女の子チャーメインは、魔法使いの家の留守番を頼まれた。家の扉は王宮や過去の世界など、さまざまなところに通じているらしい。魔法の本をのぞいたせいで恐ろしい魔物に出会ってしまったり、魔法使いの弟子を名乗る少年がころがりこんできたり…。やがてチャーメインは、王宮で進行している陰謀を食いとめるため、遠国の魔女ソフィーと協力することに…? 

魔法使いの留守番がいつのまにか、国の将来を左右する物語へ

舞台は前作で料理人のジャマールを引き取ったヒルダ王女のいるハイ・ノーランド国。過保護に育てられたせいで、家事のからっきし出来ない女の子チャーメインが、病気療養で留守にする親戚の魔法使い宅で留守番をすることなるのだが、魔法を習いにきた少年のピーターや庭師のコボルトまで登場して、洗濯物や洗い物が放置されていき家の中が混沌としてくる。

さらに、チャーメインが王宮図書室の資料整理をするあたりから問題のスケールが突然大きくなって、ハイ・ノーランド国の財政や後継者問題、さらには国そのものの将来を左右するような物語へ発展していく。
物語のすすむ過程で、いくつもの大小の問題が混沌としてきて、とにかくとっ散らかってくるのだが、終盤一気に収束させる怒涛の展開は前2作同様、読んでいて気持ちがいい。

お子さまハウルと、相変わらず苦労の多いソフィー

『チャーメインと魔法の家』は、ひとつの小説として完結しているのだが、ハウル、ソフィー、カルシファーそして、料理人のジャマールとイカ好きの犬など、前作から引き続き登場する人物も登場し、それなりに活躍するため、前2作を読んでおいてからの方が楽しめるだろう。

とくに可笑しいのは、ハウルが幼い子どもで登場するところ。前作ではジンニーに変えられてしまっていたため、またしても誰かにまじないをかけられてしまったのかと思い読み進んでいくと、ルドヴィク王子を欺くため、自らの力で子どもの姿に擬態しているという。
しかも育児に非協力的なのか、泣きじゃくるモーガンをあやしもせずに、ハイ・ノーランドへかけつけたことをソフィーに指摘されても否定しない。

「どうせあんたたち二人とも、あの子を泣きやませようともしなかったんでしょ? お気の毒なヒルダ王女の宮殿で、こんな一仮想ごっこをする口実になるからって!」

ソフィーの立場からしたら、まだ幼いモーガンの子育てですら苦労が多いのに、ハウルの育児放棄ともとれる態度に、そりゃあソフィーでなくとも怒るだろう。この手のエピソードは世間的にはよく見られる父親像なため、著者なりの皮肉だろう。

欠点も、個性として扱う著者の優しさ

はた迷惑な態度を取るのはハウルだけではない。
<ハウルの動く城>シリーズを通していえることだが、どの登場人物たちも個性が強くて、人によっては欠点の方が目立つような人物もいる。
しかし、物語の展開は登場人物たちの欠点を矯正させることなく、その人物の個性を魅力として捉えているところに優しさを感じる。

例えば、ソフィーの思考はネガティブだが、強い責任感からくる面倒見のよさや忍耐力も持っている。アブダラは上っ面だけの美辞麗句を並べるような男だが、姫様を救う意志の強さを持っていた。

そうして本作でのチャーメインは、家事の出来無いことを指摘されて逆上するような性格だが、感情を抑えて優しさを態度にあらわそうとする思考を持っている。
ほかにも、好奇心を抑えられずに言いつけを守らないピーターや、強引な性格のモンタルビーノの魔女、高貴な身分にしては気さくだが王としてはどこか頼りないハイ・ノーランド国の王様など。
現実世界で身近にいたならば、はた迷惑な人たちばかりなのだが、物語として俯瞰してみると、とても魅力的に描かれている。こうした欠点を持った人々が欠点を克服して成長していくわけではなく、長所として捉える、または別の魅力を活かしながらも、皆が協力し合って問題解決をしていくところに本シリーズの魅力が詰まっていると思う。

著者が2011年に亡くなっているため、本作でシリーズ完結となってしまったが、ハウルとソフィー、そしてカルシファーの活躍する続きがあってもおかしくないだけに残念だ。

チャーメインと魔法の家

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このシリーズにおける表紙のイラスト絵について、英語版ではそれぞれ「城」「絨毯にのるアブダラ」「ドアとチャーメイン」と、モチーフがメインに大きく配置されているため構成がシンプルなのと、茶色い影を落とした色合いのせいで、重たい雰囲気になっている。

3冊文庫本

3冊単行本

日本語版のイラストは、緻密に描かれた優しいタッチとなっており、混沌とした物語の展開や、魔法の存在する不思議な世界観がうまくイメージされていると思う。

本の表紙の役割って、最初に手に取る瞬間に好みのデザインやイラストになっているかどうかが大事なのもあるけれど、読み終えて本を閉じたときに目に入ってくる内容から、「どのような場面を描いたのかな」と想像しながら眺めるのが楽しい。
佐竹美保さんの描いた日本語版の表紙にはそんな読後の余韻に浸れる素敵なイラストになっているのが素晴らしい。児童へ売るためには仕方ないのかもしれないが、デザインが子ども向けになっているところだけが残念か。


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