マガジンのカバー画像

映画 / アニメの感想

74
観賞した映画 / アニメの感想まとめ
運営しているクリエイター

記事一覧

フレンチ・ディスパッチ(感想)_ベタで軽快な笑いどころと、小洒落た映像

『フレンチ・ディスパッチ』は2022年日本公開のアメリカ映画で、監督はウェス・アンダーソン。 ウェス・アンダーソンの他作品と比較して全体的なストーリー性は薄いため初回は楽しみ方がよく分からなかったが、2回目はすんなり楽しめた。 以下、ネタバレを含む感想などを。 雑誌を映像表現に置き換える『フレンチ・ディスパッチ』はアメリカの新聞『カンザス・イブニング・サン』の別冊となる架空の雑誌。編集部はフランスのアンニュイ=シュール=ブラゼ(やはり架空の街)に構え、テーマは国際問題、政治

ショー・ミー・ラヴ(感想)_瑞々しい感性と、目を逸らしたくなる痛々しい恋愛

『ショー・ミー・ラヴ』は2000年日本公開のスウェーデン映画で、監督・脚本はルーカス・ムーディソン。 田舎町を舞台にしたものすごく地味な作品で、鑑賞後にはじんわりと幸せを感じさせる映画。 しかし同時に観る側の思い出したく無い過去をえぐり出す、胃液の込み上げてきそうな居心地の悪さも残す。 当時の予告編動画では『本国スウェーデンで「タイタニック」を凌ぐ大ヒット!!』とあったが、タイタニックに心底満足した人でこの映画にも満足する人は少なくないか? と思うほどジャンルが違うからひどい

アメリカン・ビューティー(感想)_自身の欲望よりも理性を優先させること

『アメリカン・ビューティー』は2000年に日本公開のアメリカ映画で、監督はサム・メンデス。 妻と娘がいるのに娘の友達に欲情する中年男が主人公という、どうしようも無い男のストーリーだけれども、エンディングはそれなりに納得感のあるものだと思う。 以下、ネタバレを含む感想などを。 家と職場に居場所がないこと郊外に家族3人で暮らす42歳のレスター・バーナム(ケヴィン・スペイシー)。丁寧に手入れをされた庭付きの一軒家に住まい、高級家具が並ぶゆったりとしたインテリアは綺麗だが冷たい印象

ポトフ 美食家と料理人(感想)_愛する人のために技術を受け継ぐこと

『ポトフ 美食家と料理人』は2023年に日本公開のフランス映画で、監督はトラン・アン・ユン。 料理のシーンは美しく官能的だが物語はけっこう地味。だけれども中年男女が料理を通して互いを必要とする関係には心へ刺さるシーンが確実にあった。 以下、ネタバレを含む感想などを。 絶妙な関係性の二人19世紀末のフランス。森の中に佇むシャトーで暮らす美食家ドダン(ブノワ・マジメル)と、料理人のウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)。 ドダンがレシピを伝えて、ウージェニーが調理をするという役

ゴーストワールド(感想)_自分と世間の折り合いを考える

『ゴーストワールド』は2001年に日本公開のアメリカ映画で、監督はテリー・ツワイゴフ。原作はダニエル・クロウズの漫画で、ブルースミュージックのレコードを収集するシーモアは映画独自のキャラとのこと。 以前は自分の中で、まぁまぁ好きな映画というくらいだったけど、年を経るごとにこの映画に共感することがむしろ増えたように思う。 以下、ネタバレを含む感想を。 皮肉のきいた笑いどころ1990年代アメリカ郊外の街に住むイーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)は親友

AMY エイミー(感想)_こわれやすさと表裏一体の表現力

『AMY エイミー』は2016年に日本公開のイギリス映画で、監督はアシフ・カパディア。 2011年に27歳で亡くなったイギリスのシンガー、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリーとなり、成功とその裏側にあったプライベートの様子が赤裸々に映像に収めれられている。 以下、ネタバレを含む感想を。 無名な頃の映像も記録エイミー・ワインハウスはロンドンの北部サウスゲイト地区にてユダヤ人の両親のもとに生まれており活動期間は2003~2011年と短く、リリースしたアルバムは2枚、シングル

不思議惑星キン・ザ・ザ(映画感想)_とぼけた笑いをさそう怪作

『不思議惑星キン・ザ・ザ』は1986年にソビエト連邦で公開されたSFコメディの映画で、監督はゲオルギー・ダネリヤ。 2001年にユーロススペースで鑑賞した際、入場時に「クー」とやればいくらか割引されたはず。なお、2013年には『クー! キン・ザ・ザ』として同監督がアニメ化もているがそちらは未視聴。 以下、ネタバレを含む感想などを。 いきなり異星に場面転換80年代冬のモスクワ、妻・子どもと3人で住まうマシコフは、妻からパンとマカロニを買って来るよう頼まれる。 外に出ると、ジ

TOVE(映画感想)_自由な精神と優しい目線に対するひとつの解釈

『TOVE』は2021年日本公開の映画で、監督はザイダ・バリルート。 「ムーミン」の原作者トーベ・ヤンソンの30~40代前半を中心にしたドラマで、映画単体の印象としては薄いというのが正直なところ。 どこまで現実を再現しているのか不明だがトーベ・ヤンソンの作品に照らし合わせて鑑賞すると趣がある。 以下、ネタバレを含む感想などを。 厳格な父によるプレッシャー第二次世界大戦後のフィンランド・ヘルシンキ。風刺画や挿絵などのトーベの作品を芸術と認めず、創作に干渉する彫刻家の父から離れ

ブロークン・フラワーズ(映画感想)_いくつも存在した可能性を選択した結果

『ブロークン・フラワーズ』は2006年日本公開の映画で、監督はジム・ジャームッシュ。 かつてはドン・ファンのように女性にモテた熟年の男性(ビル・マーレイ)が、昔付き合っていた女性たちに会いにいく過程に笑いと人生の悲しみをがあるという映画。地味な映画だがなんともいえない魅力がある。 以下、ネタバレを含む感想などを。 付き合っていた女性に会うための長距離移動コンピューター関連の仕事でボロ儲けしたドン・ジョンストンは中年よりも少し老いた熟年の男性。かつてはドン・ファンのように複数

バービー(映画感想)_自らのアイデンティティーについて考える

『バービー』は2023年8月に日本公開のアメリカ映画で、監督はグレタ・ガーウィグ。 皮肉の効いた笑いの要素と、現実離れしたポップなバービーランドがお気楽な印象だが、性差をきっかけにアイデンティティーについて考えさせられるから内容は重たい。 以下、ネタバレを含む感想などを。 男どものありがちな行動パターンを皮肉るバービーランドでは様々な人種・体型・職業のバービーたちが踊ったりしながら、まるで時間の流れの止まったかのような世界で日々最高な日常を繰り返しながら過ごしている。 しか

Summer of 85(感想)_少年たちの痛々しい恋愛

『Summer of 85』は2021年8月に日本公開のフランス映画で、監督はフランソワ・オゾン、エイダン・チェンバーズによる「おれの墓で踊れ」という原作の映画化となるがこれは未読。 キラキラした映像と切ないストーリーは異性愛者でも共感できるところがあると思う。主演のフェリックス・ルフェーヴルは角度によって、若い頃のデイモン・アルバーンを思い起こさせる美少年。 以下、ネタバレを含む感想を。 互いを激しく求め合う二人1985年夏のフランス、ノルマンディーの海辺。16歳のシャイ

アステロイド・シティ(感想)_大らかで胡散臭いけど、幸せな気持ちになれる映画

『アステロイド・シティ』は2023年9月日本公開の映画で、監督はウェス・アンダーソン。 宇宙人、親しい人の死、生きる意味など、夢と希望と悲しみが計算された数々の笑いとごちゃまぜになっている混沌とした映画だった。 以下、ネタバレを含む感想などを。 遊び心満載な小ネタたち1955年、アメリカ南西部にある人口87人という砂漠の町アステロイド・シティの建物は食堂、ガソリンスタンド、モーテルくらいしかない。だけれどもここは紀元前に隕石が落下したとされ、その時に出来たクレーターが観光名

女と男の観覧車(感想)_今の自分とは違う自分になりたい中年女

『女と男の観覧車』は2018年日本公開のアメリカ映画で、監督はウディ・アレン。 うらぶれた中年女のストーリーは、後味の悪さはあるものの「現実もこんなものだろうな」という、諦めにも似た納得感もあるのは確か。 以下、ネタバレを含む感想などを。 ここではないどこかに憧れる女1950年代の夏、もうすぐ40歳になるジニー(ケイト・ウィンスレット)はコニーアイランドでウェイトレスをしており、自分の連れ子のリッキー、それと再婚相手のハンプティーの3人で慎ましく暮らしていたが、こっそりライ

王立宇宙軍 オネアミスの翼(感想)_ロケットを戦争の道具として扱うこと

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は1987年3月に劇場公開したアニメで監督は山賀博之。 2022年には4Kリマスター版でのリバイバル上映していたりと、根強いファンがいると思われる。アニメにしては堅苦しいテーマだし、落ち着いた雰囲気の森本レオの声には何回見直しても違和感を感じるけど、細部まで描き込まれた画面は見どころが多くて印象深い作品。 以下、ネタバレを含む感想となどを。 戦わない宇宙軍架空の惑星の赤道に近くにあるオネアミス王国で、王立宇宙軍に所属する青年士官シロツグ・ラーダ