スピンオフで繋がった本編「藤堂比奈子シリーズ」
本編の「藤堂比奈子シリーズ」でチラチラと散りばめられていた、死神女史こと石上妙子と、ガンさんこと厚田巌夫の物語。
この二人が元夫婦だったのは本編でわかっていたのだが、どのようにして二人の人生が重なったのかと、気になっていました。
それをまた、上手に本編でチラつかせてネタを振っていたので、スピンオフシリーズにも余計に興味が湧いていました。
死神女史も”女”だったんだという素朴な驚き
本編では、平気で死体を切り刻み、検視に臨むという、ひたすらストイックな彼女だが、なぜ、そこまで悪を憎み、ストイックになってしまったかが全て繋がってきます。
どんな小さな事も見逃さない、人並外れた優秀さは想像通りだが、それと並行して、真摯に恩師に師事して学ぶ学生としての姿と、純粋に恋愛に落ちてゆく女としての心理描写があります。
プレゼントされたドレスを着て、普段はしない化粧を施してディナーにと向かういじらしい姿は、ある意味新鮮なのだが、それらが後で大きな伏線だった事がわかります。
やがて、当時は新米刑事だったガンさんのやさしさに気づく心理描写で彼女の人としての成長も伺えるのです。
ガンさんのやさしさは真の男らしさ
きっと彼は根っからの優しさを持つ男なのでしょう。
真摯に検死と向き合って、被害者の無念を晴らすんだという死神女史の姿に心打たれて、尊敬心から愛情に変化していきます。
それを素直に認めるところが男らしい。
一度愛してしまったら、彼女のすべてを愛します。
たとえ他の男の子供を妊娠していようが、
どんなに振り回されようが、
冷たい態度であしらわれようが、
全く関係ない。
そこには「ドM」かっ!とツッコみたくなるほど、真直ぐに愛します。
やがて、めでたく結婚生活は始まりますが、そうなれば普通は永遠の安泰を願うのでしょうが、彼は違います。
死神女史のすべてを理解しているから、いつかこの生活は終わると予想しながら日々を過ごすのです。
はなから家事をしてもらおうとも思っていないし、期待もしていないという、妻としてではなく、もっと基本的に人としての死神女史をとことん尊重します。
全て相手次第で自分の意思など皆無という、この大きな包み込むような愛情は、相手の真髄を解っていないと絶対に生まれない感情なのです。
伏線回収は上手いが、本編を読まないと始まらない
2人の関係もですが、本編での凄惨な事件の事の起こりも、これでスッキリ解明できているのはすごい。
しかし、
本編をもし読んでいない人が手に取ったら、たぶん「なんだこれ?」となるはずです。
どちらも、結論は出ていないので、これらだけ読めば消化不良になりそうです。
これは本編に組み込んでしまっても良かったのではないか?
まだ死神女史の「パンドラ」には、結論を明記した別の事件を添わしているので、せめて、ここに「サークル」を組み込んで、2冊を一つにまとめ方が良かったと思えます。
「サークル」がオマケのそのまたオマケになっているのは否めないなぁ。