藤田嗣治を目当てに「山王美術館」へ
※サムネイル画像はA4チラシより
以下、館内は撮影禁止なので絵画はチラシの画像を使用
お正月三が日が過ぎた4日、大阪京橋にある「山王美術館」へ行ってきました。
元々は難波のホテルモントレ グラスミア大阪の22階に2009年に開館したのですが、現在は大阪城公園の北、大阪ビジネスパーク内に独立して2022年に移転オープンしています。
昨年、何度か訪れた「藤田美術館」から寝屋川を挟んだやや南東にあり、直線距離にしてわずか700mほどしか離れておがず、車で回り込んでも5分の近さです。
移転した今回もホテルモントレ ラ・スールに隣接され、駐車場も当ホテルを利用するようにとのことなのですが、駐車料金の割引はありませんでした💦
ウッカリ見過ごしそうなほど、とてもシックでひっそりとした佇まいです。
お正月休みのせいか閑静な上、高級感もあり、入場を一瞬ためらってしまうほどの重厚感にあふれています。
マルイトグループ・木下政雄氏のコレクション
創設者の木下政雄氏は1936年の呉服商・丸糸商店の創業に始まり、その後はその関連会社の代表を次々と努め、1967年には公益のために私財を寄附した者に与えられる「紺綬褒章」を受章。
1975年には「財団法人木下記念事業団」を設立して、未来を担う学生たちの修学援助にもつとめました。
さらに丸糸商店の他「大阪グンゼ販売」、「ジェイ・エル・エイ」、「アコム」などの代表取締役会長を歴任してきました。
そして「ホテルモントレ」も1986年に開業します。
その木下氏が50年以上に渡ってコレクションしてきた美術品を公開・展示する美術館として生まれたのが「山王美術館」なのです。
山王美術館コレクションでつづる
3人の日本人画家
今回は開館15周年記念展として、パリで活躍した3人の日本人画家、佐伯祐三・荻須高徳・藤田嗣治を採り上げています。
驚いたのは、版画は1枚もなく、どれも油彩画、あるいは水彩画の1点ものだったことでした。
前情報も何もなく絵画好きの夫に連れられてきただけに、驚きもハンパなかった!
この3人の版画なら、過去に画廊に勤めていた時に見た事はあっても、油彩は初めてなものですから、ちょっと舞い上がってしまいました。
私は何といっても藤田推しですが、夫は佐伯推し。
美術好きなのは共通していても好みの画家は違います。
佐伯と荻須による
パリの街並み
佐伯と荻須の絵を観て、いきなり正直な一言感想は、
ーパリに青空はないのか!ーでした。
たまたまコレクションしたものがそうだったのかもしれませんが、空の色がどれもグレーなのです。
二人を比べると、佐伯の方がさらに暗い。
確かに彼の絵には昔から、色のトーンが沈んでいると感じてはいましたが、よく見ると空だけでなく建物や道に至るまで、全てにグレーがかっていて、暗いながらもシックに全体をまとめています。
同じ時期にパリで活躍したユトリロの方がまだ明るく感じます。
不幸な生い立ちの彼でしたが、作風にはどこか温かみを私は感じていたものです。
佐伯は惜しくも結核により30歳の若さで没しますが、熱心な彼のファンである大阪の実業家・山本發次郎さんに150点ほど収集所蔵されたのですが戦火により100点ほども焼失。
決死で守り抜いた33点は大阪市に寄贈され、その後の寄贈や購入品を含め、現在では60点が中之島美術館に貯蔵されているとの事です。
とはいえ、現実にこの山王美術館にも貯蔵され、今回も30点ほど展示されているのを見ると、全国各地に、密かに大切に保管されているという事なのでしょう。
直筆の油彩作品だけに、そのダイナミックな筆使いが確認でき、「生きた絵」という印象を受けます。
荻須の絵は川や海などの「水」の表現に素晴らしいものがあり、波打つうねりや淀んだ感じなど、まるで本物みたいに見事に描かれていました。
彼は84歳まで生きましたが、比較的晩年の作品になるほど、色のトーンは明るくなっているのを思うと、若い頃の尖った心象が解凍されるように丸くなってゆくのを絵から感じ取れました。
佐伯と荻須、二人は友人同士で交流もあり、お互いに影響を受け合って切磋琢磨してきたのです。
佐伯がもう少し長生きしていたら、荻須の絵も違う変化を遂げたかもしれず、佐伯自身の絵もどう進化したかと思うと残念さを感じずにはいられません。
藤田の唯一無二の表現
5階ー佐伯祐三
4階ー荻須高徳
3階ー藤田嗣治
5階から順に降りて各フロアを鑑賞するシステムで、最後に「藤田嗣治」のフロアです。
一歩入ったとたん、上記二人の雰囲気とはまるで違う明るい絵が並んでいます。
フランス人に帰化して洗礼を受けているので、「レオナール」と命名され、レオナール・フジタの名の方が有名かもしれません。
(画廊勤めの時は「レオナルド」と習った。以下フジタと記す。)
私は過去に彼について詳しい記事も書いていますのが、今回はこの展覧会でのフジタを書かせていただきます。
彼の絵を簡単に言うと、油彩画でありながら日本画の技法を取り入れ、透明感ある乳白色の肌と繊細な描写でしょうか。
一見するとどれも水彩画のような軽くて薄い色合いなので、とても油彩には見えないほどです。
上記記事内でも触れていますが、人物の肌の色彩は生気を感じられないほど白い。
そして目線は定まっておらず、斜視気味に表現され、しかも身体のバランスも頭でっかちで首が細く、5等身に描かれているのです。
当たり前の人物画を見た通りに描くのではなく、特徴をデフォルメしたフジタ独特の世界観を大いに醸し出しています。
私は写実と抽象のどちらが好きかと問われれば、甲乙つけがたいのですが、考えたあげく「抽象画」と答えるでしょう。
その理由として、抽象画は描く人の「心の目」で捉えて表現され、見る側もその時の心情や気分によって見え方が変わり、そこには「決めつけ」はまったく無く、”構えないニュートラルな心”で眺める事ができるからです。
このフジタも風景画にしろ人物画にしろ、見たままではなく、その都度、対象の特徴を押さえて強調しているのは、彼のオリジナリティあふれる部分だと思うのです。
先に鑑賞した佐伯や荻須に比べると、同じ油彩とは思えないほど軽いタッチこそがフジタの魅力であり、唯一無二の個性だと言えます。
フジタ作品30点中、水彩画2点とインク画1点がありましたが、同じように並んでいても違和感も感じないほどでした。
フジタのモチーフによく使われているのは「少女」と「猫」。
どれも無表情でつんと澄ましたしたものですが、そういう愛らしいものを好んでいたのがわかるほど、フジタの愛ある眼差しを強く感じられるものでした。
【関連記事】