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【2020/05 葬列】③

直人さんのように冷静で計算高く、先読みして大きな組織を分散させ、違法性や暴力を排除して着実にビジネス化を進めていた場合、リスクヘッジは強固だ。自分の身に何か起きた時どう対応するというのも固めてあったんだろう。
ふみに傘下の団体や肩書は与えつつ曖昧な立ち位置にしておいたのも、伴っていたのもそのため、計算のうちだった可能性が高い。意図はわからないがそれが今正しく働いている事だけはわかる。
何より報復は、直人さんの組織を裏切った人間を炙り出す為なされたもので、実行に参加した人間も義理人情とかじゃなくその後にステップアップや海外進出を狙って自分の意志で参加している。所謂「手上げ」だ。
だから当然全員逃げも隠れもせず逮捕勾留され、罪を認め、自分の意志で敵討ちで殺った、仲間内で相談はしたが誰に指示されたわけでないと供述しているし、本当のことは言わないが決して嘘も言っていないからそれ以上追い詰めようもない。
そもそも直人さんは自分を欺いたり裏切ったりしそうな気配のある人間を察知した時点で報告を上げさせることを下にいるほど高い報酬を出すことで徹底させていて、その得た情報は警察に随時流していたということを以前聞いている。
なのでその中に名前があった人間やその周囲の人間が消されたところでこっちはほぼ無傷、更なる追い込みをかけられるのは向こうだ。
涙を拭って、動画のリンクを開く。
動画にはニュースサイトやテレビや新聞ではやらない、向こうの死亡者とか容疑をかけられている人間の情報が既に上がってきている。その中に知っている名前と顔があった。
「片岡って…」
お母さんがようやくおれに言葉をかけた。
「知ってる人?」
「…うん、少し」
そこでお母さんは、おれが進学後にしていたこと全て、それどころか家を離れてからしていたこと全てを都度調査させていたので知っていたことをおれに告げた。
成人して優明の存在と居場所を教えてもらったにもかかわらず、小曽川家への訪問を数回でやめてしまい、その後送金の話が小曽川夫妻から上がってきたことから調査を開始し、売春や直人さんとの契約のことを知り、そこに関わった人間についても調べ、組織の状況や、それそれの人物の中での立ち位置、関係を把握していたことを告白した。
それだけでなく、学校でのおれの人間関係も、その人らのバックグラウンドなんかも全て掌握した上で、学業や研究といった為すべきことをこなしている限りは敢えて何も言わなかったと。
「ハルくんとヤッてたことにしてもそうだけど、なんでそこまで知ってて、どうしておれに直接やめろって言わなかったの」
「強固な自分ルールで動く特性がある場合、その程度のことではやめない。意志が強いとかではないからなにか決定的な問題が起きない限りはやめることはできない。だからこそ玲さん…アキくんは研究者になれた側面がある訳でしょう。わたしたちが勝手に調べ上げたことやその理由を隠して一方的に叱っても、自閉傾向の高い子には被害感を感じやすい特性も同時に存在するから効果がないどころかそれは良くない方向に作用してしまうこともある。重要なのは、マズイことになりそうなときにそれを受け止める人間でわたしたちがいられるかどうか、わたしたち以外にもそういう人間がいるかどうかだった。そしてアキくんには困ったつながりばかりでなく頼りにしている人もたくさんいると知ってたから、アキくんが自身でわたしたちに助けを求めない限りは見守ることに徹しようとお父さんと決めたの。親という文字は木の上に立って見ると書く、それ以上のことは無用と、英一郎さんが」

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