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イラクのクルド族の男の子が工事現場に働きに来た

イラクのキルクークの宿舎から、サイト(工事現場)まで移動する間に、 
破壊された兵器を見るようなイランーイラク戦争のまっだ中に、 
イラクで仕事をしていた。 

工事現場の脇に高射砲が放置されていたり、 
時には自分たちが工事している以外のサイト、 
当時はフェーズⅠのサイトⅠ~Ⅶまでが工事中で、 
自分たちの工事範囲はサイトⅣとサイトⅤでしたが、 
サイトⅦがイランの攻撃を受けて、 
三階建てくらいの高さのある鉄骨の架台が熱で  
ぐにゃりと曲がってしまったりしていた。   

そんな時、イラクのクルド族の男の子が工事現場に働きに来ました。  
英語もアラビア語も出来ません。 
手ぶり身振りで、なんでもやるから、
働かしてほしいと言っているようでした。 
ちょうどイラク人がプライドが高いばかりで、
仕事が出来ないのに嫌気をさして、
思い切って、イラク人以外を使おうと募集をかけようかと
相談していた時でした。 

年齢は見た感じ、12~16才ぐらいの子供です。 
戦時中なので、16才以上の男子は戦争に行って街にはいません。 

見て12才以下と分かる子供は雇えないので、
16才の証明書を持ってきた、クルド人4人と、トルコ人2人を
雇うことにした。 

そうして気が付くのは、学が無い人々の子供は、学校にも行けない。 
親がすでに文字が読めないので、勉学に対する重要性が分からない。 
文字を読めない親が子供に教えるのだから、結果は見えている。 
それでも、貧しいクルド人は手ぶり身振りで仕事を覚えようと努力する。 

ここの仕事は三か月で終わるので、そこまでしか雇えない。 
それも説明したが、ここの仕事が無いと、現金の収入がゼロだと言う。 
どうやって食っていたのかと聞くと、羊の放牧と、
近所の大きな農家の手伝いでほんの少しのお金を稼いでいたと。 
ここの給金はイラクの最低賃金を守っているので、
穴掘りでも、一日20ディナールにはなる。 
お茶が1杯0.1ディナールの時代だ。 
ちなみに、チョコレートが1枚12ディナールであった。 

20ディナールあると、家族8人が一日食え、
少しは貯蓄できる金額だそうだ。 
そんなクルド人の男の子は、気温40℃を超える中、
イラク人と違い、日本人と一緒に一生懸命仕事をするので、
親しくしていた。 
そんな男の子にお金を渡して、仕事に来る前に、
当時、雑巾パンと呼んでした、お昼を買ってきてもらった。 

5ディナールを渡すと、パン代の1ディナールを受け取って、
4ディナールのお釣りを持ってくるので、御駄賃だからあげると言うと、
そんなにたくさんはもらえないと言うので、
1ディナールだけ御駄賃と言って握らせる。

そんなことをしている内に、うちに来ないかと言い、
サイトから歩いて20分程度の場所に住んでいると言う事らしく、
休みの日に行って見ることにした。 

砂漠と言うか、土漠と言うか、ものすごく目の細かい土の道を歩いて、
クルド族の男の子の家に遊びに行ったら、コップの水をもらった。 
その家で、一番いい水をお客には出すと聞いていたので、飲む。 

コップの下半分が泥水で濁っていて、上澄みを飲んだ。  
お湯のようにあたたかい。 
気温が40度以上ある泥壁の家には風も通らない。 
クーラーなぞ望むべくもない。 
母親とおじいちゃんと手ぶり身振りで、色々なことを聞く。
この子の父親は戦争に行っていない、
下の子は、まだ、幼くて生活は大変らしい。
あっという間に二時間も過ぎ、サラーム・アライクムと言って
宿舎に歩いて戻る。

三か月が経ち、雑工がする仕事もなくなる。 
何とか、このクルド族の子供だけでも雇用したやりたくて、
色々手を打ったが、イラクとの契約で雑工以外は地元民を
使えないらしく、あきらめたが、
その後もサイトの入り口で、自分を見かけると手を振って来る。 
眼を伏せることしかできない。 

そのような現実をたくさん見たし、経験した。 

自分が出来る事の何と少ないことか。 
経験もなく、実力もなく、この世界に向かわなくてはならない。
それでも、クルド族の男の子には仕事を与えられたし、
ほんの少しだが、お小遣いから、
お昼の買い物の御駄賃だとお金も与えることが出来た。

自己満足でしかないのは分かっているが、当時の自分としては、
出来る限りのことはしたつもりだ。

何もしないよりは良いと思いたい。

世の中を良くすることは出来ないだろうが、
目の前の人ぐらいには真摯に付き合いたいと思う。
それは、間違ったことだろうか?


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