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うめこ 18歳、夏(1)

高校を卒業して、東京の杉並区にある短期大学に 
合格したうめこは地元から身の回りのものだけを持ち、 
東京で住むところを探していた。 
高校の先輩のつてで、東中野の風呂なしのアパートを見つけ、 
早速、そこに住むことにした。  
短大まで、電車と徒歩で約30分、安いだけが取り柄のアパート。 
それでも、初めての一人暮らし、 
希望に満ちた日々が始まる予感でいっぱい。 

短大の授業は月・火・木・金曜日は 9:00 からで、
水曜日は10:40 から 1 時限だけと言う、
満員電車を避けるためには早く出かけるか、
ぎりぎり遅く出かけるしかなく、
早く出かけて学食で朝食をとることに。
朝定食、350円なので、ご飯とみそ汁に納豆、ほんの少しの焼き魚、
自分で材料を買って作ると200円ぐらいかな、もったいない気もするが、
ガス、水道代を考えると、洗わない分お得かも。
その学食の掲示板に部活動の勧誘が貼ってある。
高校の時にやっていたハンドボール部にしようかとも思ったが、
高校での別名(あだ名)を思い出し、首を振り違う部活を探す。 

毎日、朝早くから一人で起きて、顔を洗い授業に行く準備をする。
電車で移動なので、少しはオシャレもしようと口紅ぐらいは買おうと思う。

毎日が楽しくて、楽しくて、東京の生活がうれしい。
サークルで知り合った佐藤さんもいい男で、
何か進展があるといいなぁとぼんやり思ったり、
田舎の母にこんなに楽しいと、何か悪いような気もする。


高田馬場駅から神田川沿いに歩いて30分、
その古びたアパートは神田川沿いの道に面して建っていた。
2階の窓に腰掛け、うちわであおぎながら
ぼんやり川を眺めているうめこさんに声をかける。
「うめこさん! お祭りに行きませんか?」

短大のサークルの副部長、佐藤さんだ。
「今行きます!」と返事をして、いそいそと支度をする。
夏らしいポロシャツに擦れたジーンズ、コンバースと言う
彼の隣に並ぶのは「どんな格好がいいのかしら?」と思いながら
衣装ケースから、白のワンピースを引っ張り出して、
軽くポニーテルを見直して、
水色の編み上げサンダルをつっかけ、慌てて表に出る。

「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。」
「待たせたら悪いと思って。」とうめこさん。
「今日はアルバイトも無いと聞いていたし、
学校も休みなので、暇かと思って近所のお祭りのお誘いに来ました。」
飛び跳ねるように、うれしそうな顔で、
「うん、行きたい!」
「ちょっと、歩きますが行きましょう。」
川からの風が心地よく、そっと手を伸ばしてみる。
うめこさんが嫌がらないのを確認して手を握り、
「食事は?」と聞いてみる。
「まだなの、それほどおなかは減っていないから、
まだ、大丈夫です。」と笑みがこぼれる。

手を繋ぎながら、ゆっくり神田川の川べりの道を歩いていくと、
お囃子と、イカ焼きや焼きそばの良いにおいが漂ってくる。
少し、佐藤さん手が汗ばんでいるが、離すのがもったいなくて、
そのまま手を引いて小走りで神社に向かうと、
神社に上がる短い階段で、
「危ないですよ。」と注意されるが、
胸がどきどきして、聞こえないふりをして手を強く握ると再度、
「危ないですよ。」と手を強く握り返す佐藤さん。

「こんな楽しいのは久しぶり! なにから食べようかしら?」
「先にお参りしましょう。」と言われ、奥へ向かう。
社殿の前で手を離すのが、寂しくて少し小指を握っていると、
「大丈夫ですよ。 また手はつなぎますから。」
そう言われて耳まで赤くなるのを感じる。

二人で神社にお参りをして、うめこさんの方をそっと見ると、
まだ赤い耳がかわいい。
何か声をかけようと思ったが、
こっちにパッと顔を向けたので、手を繋ぎ、声をかける
「階段に気を付けてね。」
嬉しそうに手を握り返すうめこさん。

「ねぇ! 何を食べようかしら?」
佐藤さんに声をかける。
「そうだね。焼きそばかイカ焼きかぁな?」
「実家の近所のお祭りで食べたイカ焼きよりおいしいかしら?」
「どうだろう? 都内だからそんなにおいしくないかも。」
「そうかなぁ。 きっとおいしいわ。」
少し照れたように
「うめこさんと食べれるから、何でもおいしいと思う。」
「うん。 じゃイカ焼きにしましょう。」と、手を引いて歩きだす。

イカ焼きと焼き鳥を買って、そしてビールも二つ。
参道のベンチにハンカチを置いて、
「どうぞ、うめこさん。」
「あら、お姫様みたい。」と、うれし気な表情に安心して、
二人並んで腰を下ろし、
「うめこさん。乾杯。」と、ビールを掲げると、うめこさんも
「うふふ、乾杯!」と楽しそう。
小一時間、うめこさんの故郷の話を聞いて、
そろそろ風も冷たくなってきた。
「うめこさん、そろそろ帰りませんか?」と尋ねると
「そうしましょうか?」と、もう少し居たそうだけど、
「今日は初めてのデートだから、また、次も会えますから。」
「本当?」
「うめこさんの都合を教えてください。」
「そうね、アルバイトがないのは2週間後かな。」
「わかりました、2週間後にまた、デートしましょう。」
「うん。」とうなずくうめこさん。

足取りも軽く、アパートに戻り、
佐藤さんと別れてから、
ほっぺにキスくらいしてもよかったかしら?
と思う、うめこだった。

・・・
これは創作で、主人公に似た名前の人もフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。 
あくまで、妄想ですので事実と誤認しないようにお願いいたします。
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