その毛先が風になびいた話
朝、目覚めると妙な気配がした。なんか違和感が、モゾモゾするのだ。おしりの辺りだ。寝ぼけているのか?起きて振り向いてボクは驚いた。
「シッポ?」
その毛はキツネのような薄い茶色で、フサフサとして、ボクの肩までピンと反り返るようだった。ゆらゆらと左右に揺れるように動いている。毛並みが良く、毛先は艶やかに朝の陽ざしを受けて輝いていた。
ボクの体はどうなってしまったのだろう?触ってみたら、ホントにフサフサだ。握ってみたら、芯があるようだ。おしりの割れ目からシッポの先までしっかりと骨があった。それに握られた感覚がコレが自身のシッポだと告げていた。
↓とりあえず、イメージするならこんなヤツです。
「とりあえず仕事に、行かないと…」
シャツは良いのだが、着替えようにもズボンの中に収まるモノではなかった。押し込んだシッポはズボンをモコモコと押し上げ、何か隠してます感を思う存分に醸し出していた。ボクは起き抜けの頭で考えた。どうしよう?
「何も、思いつかない…」
そもそもシッポが生えてる時点でおかしい。2次元キャラじゃあるまいし、言い訳すら思いつかない。でも今日の商談は外せない。行かないと。仕方なく古いパンツとズボンの後ろに穴をあけ、そこにシッポを通してみた。意外にうまくいった。その格好で階段を下りて居間へと向かう。奥さんは朝ごはんの支度中だ。
「おはよう。」
白々しく声をかけた。奥さんはボクを一瞥すると、何も言わず支度を続けた。見えない?のかな。シッポはボクの左の肩口からニョキと顔をだしている。時折揺れた毛先が頬に触れて心地よい。とりあえず椅子に座った。ボクはシッポの根がイスに当たらないよう、おへそを前に突き出すような格好になった。
「早く、食べてね。遅れちゃうよ。」
奥さんはいつものように淡々としていた。ボクのシッポには関わろうともしない。まさかホントに見えてないのだろうか。
「ねえ、このシッポのことなんだけど…」
「見えてるよ。いいんじゃない。この前よりはマシ。」
確かに変身してる訳ではない。一応ヒトの体はしている。今回は被り物も甲羅もない。女のヒトは、きっと理解できないコトが重なると逆に強くなるのかもしれない。動じることもない彼女の姿に、ボクにはそう感じられた。
シッポはゆらゆらと揺れて秋のススキのようだ。それに見ようによってはカワイイ、かも。そう思えてきた。
「コレって意外と使えるかも?」
過去の痛い反省にも懲りることなくワクワクする自分がいた。
ボクは本当に反省が苦手らしい。
(イラスト ふうちゃんさん)