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個人的お気に入り、才能に嫉妬した方々を勝手に紹介します②「カッパを見たので話を聞いてほしい」


今回はエッセイのなんたるかを教えてくれた、いや教えて頂いたtoi(とい)さんの「カッパを見たので話を聞いてほしい」です。

唐突なカミングアウトですが、ボクはエッセイが書けません。持病の発達障害傾向のお陰で、僕には相手へ共感する能力が著しく低いのです。エッセイを書く上で共感力がないってのは…です。

ということでtoiさんの秀逸なエッセイ、「カッパを見たので話を聞いてほしい」を紹介させて頂きます。カッパを見たという女友だちと二人、おごり焼肉を楽しんだというお話です。

友人は短い夏休みを利用して岩手へ旅行した際、宿泊した古民家のオーナーから、この辺りは昔からカッパが出るという話を聞いたようだ。そんなバカな、と私は冷ややかな目で見たが、口を挟むのは詳細を聞いてからでも遅くないだろうと、焼けたばかりのネギ塩タンで口を塞いだ。

ドラマにもなった「東京タラレバ娘」ご存じでしょうか?独身アラサー女子の生態を面白おかしく描いたマンガなのですが、そこに出てきそうなやりとりや描写の数々。一部だけここに紹介しますが、遠慮のない姉がそうするような、色気ではない女子の心情や仕草がリアルに描かれています。母親しか女子がいない家庭に育った僕には結構鮮烈な描写が続きます。

案の定、翌朝に見つかったのは痛んで食べられなくなったお漬物だった。ところが「これ見て」と見せられたスマホの画像にはキュウリのお漬物に齧られた跡が写っていた。あんたが一口食べたのを忘れたんじゃないの、と喉まで出かかったが、友人の旅行は二泊三日だったので、まだ一泊残っている。話の腰を折るには早すぎるし、私のお腹もまだ空いている。

その場の光景が目に浮かぶような描写、表情までもが目に浮かぶような描写、これぞエッセイですね。見事です。語調のリズム感も良くて、おごり焼肉の臨場感を感じます。女子のホンネってこういうヤツ、が味わえます。

それを聞いた時、私はビールジョッキをぐっと握りしめ「よかったよかった」と泣いていた。つまり、死ぬほど酔っていたのである。それは友人も同じだった。私たちは肩を抱き合い祭りのごとく、何がめでたいのか虚構の神輿を担ぐように盛り上がった。

宴もたけなわ、盛り上がりの描写がスゴい。僕がtoiさんの弟なら、アラサー女子がガラ悪くでき上がってるだけじゃねーか、とでも言ったのでしょうが、「虚構の神輿」とまで表現された日には、もう負けしかありません。

「この店はね、カッパのお肉を食べられるんだ」探すのに苦労したよ、と付け加えると早速、トングで肉を並べていく。私は酔った頭のまともな部分をかき集めて整理すると、友人は牛肉のカッパという部位を、カッパのお肉だと思っているようだった。

話自体が意外性の塊でしたが、さらに意外をぶっ込んでくるこの秀逸さ、もう見事しか言えません。芥川にもランボーにもできない芸当です。

ところがそこにあるはずの焼き肉店はバーに変わっていて、移転したのか、閉店したのか、店の行く先は何も掴めなかった。私と友人は狐につままれたようになり、お茶を濁そうといくつかカッパ肉を提供する店を食べ歩いたが、どこで食べてもあのときの味はしなかった。

オチに向かっていくこの儚い感じの醸し方も見事です。リンクで飛べるので、ボクの拙い解説より、もう読んだ方が早いです。

エッセイ書くならこんな風にって思われた方、ぜひ参考にして下さい。僕も「海辺にて」を書いた時、toiさんの軽妙なリズムや言い回しを随分と参考にさせて頂きました。先生と呼ばせて頂きます、ありがとうございます。

語感やリズム感まで気にしだすと、もう音楽に近いですね。軽快なリズムに乗せたtoiさんの流れてくような文章、一度堪能してみてはいかがでしょうか。

「エアコン…」も「妖怪に..」もオススメです。気分転換に、楽しくなりたい時、元気になりたい時にぜひ、どうぞ。

toiさん、これからも楽しい作品待ってます。


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