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無くし物人生にさよならを

左手の手袋を無くした。買ってからたった一週間で無くした。ネットで買って届くまで待ち遠しかった、指先でスマホを操作出来る手袋。

スマホの反応は悪かったけど、冬の冷たい空気から守ってくれるあったかい手袋だった。ポケットに手を入れず、ブンブンと腕を振って歩くことが出来る。これから何年も大事に使っていこうと思っていたのに、手袋は一瞬にして行方知らずになった。

普段使うリュックの中にも、コートのポケットにも、探したけど見当たらない。母に「黒い手袋見なかった?」と聞いても、ないと言われる。「そもそも手袋なんて持ってたっけ?」と言われる始末。

おそらく会社から帰る道中で無くしている。スマホが触れないから、結局電車の中では外していた。手袋はポケットに乱暴に突っ込む。これが良くないんだろうな。鍵や定期、数々の物をポケットに突っ込んで闇に葬っている。僕のポケットは四次元ポケット、知らぬ間に異空間へ消えてしまう。

無くしたと気付いて、すぐに駅の窓口と交番を尋ねることにした。もしかしたらそこにあるかもしれないと淡い期待を込めて。友達は「手袋なんて誰も届けに行かないよ」と言うけれど、ここは日本だ。和の心を持った親切な人が届けてくれるかもしれない。駅の窓口で手袋の落し物はないか聞いてみたが、残念ながら僕の物と一致する手袋は見つからなかった。

今度は交番だと足を運んだが、僕が行く時間が悪いのか、お巡りさんに会うことが出来ない。パトロール中なのかな、ご苦労なこった。僕は五分くらい指名手配犯の顔を眺めて待っていたけれど、戻って来る様子はなく、仕方なく交番から出た。道行く人がチラっと僕の顔を見る。交番に用があると思われるのはちょっとだけ恥ずかしい。でも、僕は諦めないぞと来る日も来る日も出掛ける前に最寄りの交番を訪ねた。お巡りさんにやっと会えた日には嬉しくて「いた!」と思わず声が出てしまった。

しかし、そんな感動も虚しく交番にも僕の手袋は届いていなかった。お巡りさんが「遺失届を出しますか?」と聞いてくれたけど、出したところでもう戻って来ないだろうと思ったので、それは出さずに交番を後にした。さよなら、手袋。どこかで幸せに暮らすんだよ。

手袋を一週間で無くしたことはかなりショックだった。正直買った時から無くすかもと嫌な予感はしていた。だから、気を付けようと思っていたのに、それでも無くす自分に腹が立つ。左手と右手が毛糸で繋がれた子供用の手袋を僕は買った方がいいかもしれない。

物を無くすのは小さい頃からだ。いつも出掛ける前に「あれがない!」と騒ぎながら、部屋中を探し回ることになる。僕は家の鍵も、通勤の定期も無くしてきた人間だ。

定期は入社早々に無くして、会社の人たちが社内を一緒に探してくれた。とんだ迷惑新入社員である。結局定期は親切な人が交番に届けくれていて、その日のうちに見つかったが、それ以降絶対に無くすまいとドラえもんのパスケースをチェーンでベルトを通す輪っかと繋いでいる。友達からは「ダサいな」と言われるけど、そうでもしないと不安でしょうがない。

高校生の時には制服のブレザーも無くしたことがある。どうやってブレザーを無くすんだと思うかもしれないが、夏の中間テストの日に制服の身だしなみチェックがあって、全員持って来ないといけなかった。夏はYシャツだけで過ごしてた生徒たちは大ブーイング。僕もこんな暑い日にブレザーを着て登校出来るか!と文句を言いながらブレザーをリュックに入れて登校した。そしたら、着いた頃には見事に無くなっていた。リュックのチャックが全開だった…。

母は仕事に行く前に、最寄り駅でブレザーらしき服が道端に落ちているのを見かけたらしく、あの時拾えば良かったと今でも後悔してる。僕は卒業した先輩のお下がりを譲り受けて、何とか卒業まで過ごした。だから、先輩の高校の思い出が詰まった大事なブレザーは僕の部屋にしまわれている。

その頃と何一つ変わっていない自分が嫌になる。いつまで僕は物を無くし続ける人生なんだ。物を大事に出来ないから、自分の近くにいる大事な人だって無くしてしまうんじゃないのか。本当に大事な物が見えないんじゃないのか。

今年こそは変わろう。手袋を無くしたのは去年の年末だ、今年は無くし物ゼロ件を目指す。怖いからもう四次元ポケットには何も入れないよ。

無くし物人生にさよならを。



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