今はゲームをしない時期
会社にいるおじさんがお昼休みにいつもゲームをしている。椅子をリクライニングにして、自分の家みたいにくつろいで楽しんでいる。初めてその光景を見た時は、正直ドン引きした。会社でゲームなんてしていいのか?と入社したての真面目な僕は思ったのだ。
でも、おじさんと仲良くなって話してみると、おじさんには家では出来ない事情があると知った。おじさんにはまだ小さいお子さんがいて、家に帰ると子供の面倒を見ないといけない。奥さんの厳しい目もあって、ゲームをする時間なんてない。おじさんにとって、誰にも邪魔されずゲーム楽しめるのは会社のお昼休みの1時間だけなのだ。
その事情を知って、僕はおじさんの見る目が変わった。思う存分楽しんでくれと陽だまりのような気持ちで見るようになった。おじさんは僕に「歳をとってからの育児は大変だから、ちくわ君は早く結婚しなよ。」と言ってくる。
そうは言っても、おじさんは子供が熱を出したら早退して病院に連れて行くし、デスクには子供の写真が置いてあって会社のパソコンの待ち受けを勝手に家族写真に変えている。僕はそんな子煩悩なおじさんが大好きであった。
おじさんがゲームをしている時に、僕はよく話しかける。「今は何のゲームをしてるんですか?」と聞いたらおじさんは「モンハン」だと答えた。短い時間でさくっと楽しめるのは、モンハンだと言う。おじさんは休み時間に一狩りしているのだ。モンハンは僕が中学生の頃に爆発的に流行ったゲームだ。同級生はPSPを持って寄って通信プレイを楽しんでいた。僕はDSしか持っていなくてその輪に入ることが出来なかった。中学時代の苦い思い出を思い出す。
「僕1回もモンハンやったことないです。」
僕の声がやけに悲しかったのか、おじさんは「じゃあやって見れば?」と僕にswitichのソフトを手渡してきた。僕が「えっ?」と困惑していると、おじさんはゲーム画面を見つめながら平然と言う。
「同じのダウンロード版で持ってるからソフトはいらないんだよね。だから、あげる。」
その日はたまたま僕の誕生日だった。僕は「今日誕生日なんです」と言うと、おじさんは「じゃあ、ちょうどいいね。」と眉を下げて笑った。僕は突然のプレゼントが嬉しくて、周りの同僚にもおじさんからモンハンを貰ったと嬉々として自慢した。
あれから、3か月。僕はモンハンをやり込んで、休み時間におじさんと仲良く通信プレイを楽しんで……いない。
貰ってから1度もモンハンをやっていない。
ソフトはケースの中にしまって、一度もswitch本体に差し込まれていない。まともな人間ならすぐにプレイしてモンハンの感想をおじさんに伝えるべきだ。僕はそれを3か月出来ずにいる。
やりたい気持ちはある。でも、ハマってしまったらどうしようという怖さがある。僕はゲームをする時期としない時期があって、する時期は私生活の全てをゲームに費やしてしまう悪い癖がある。今年の2月に彼女に振られて、意気消沈していた僕は、ずっとドラクエ11をやっていた。
仕事から帰ってきたら寝るまでプレイして、土日は食事と寝る以外、狂ったようにドラクエをしていた。レベルを上げ、仲間を増やし、魔王討伐に向けて冒険する。自分はこの世界を救うんだ!と主人公と同じ気持ちで歩く。ゲームをやっている時は、嫌なことを忘れてそれだけに集中出来るから気が楽であった。プレイ時間が100時間を超えて、僕は念願のラスボスを倒した。
ゲームの世界では祝福される、「世界を救ってくれてありがとう。」「ちくわのおかげでここまで来れた。」村人、仲間からの熱いメッセージ。ゲームの世界の僕には人望があった。ここまで褒められると世界を救ったかいがあるってもんだ。僕はやり切ったぞと達成感に浸った。でも、それと同時に心の奥に寂しさを感じる。ゲームクリアと同時に襲ってくる虚無感はなんだ?虚無感が僕に”本当の現実”を突き付けてくる。
この2か月お前は何もしていない。
暗い部屋の中でゲームをしていただけだ。
それに気付いた時、僕は「書きたい」と思った。自分は何してるんだろうって。本当にやりたいことからただ逃げてるだけと思った。日々の仕事や恋愛に流されていたけど、大学生の頃から「書く仕事」を夢見ていたではないか。ゲームではどうしても埋められない心の隙間がある。それを満たすために、ほとんど更新が止まっていたnoteを4月の終わりに再開させた。ドラクエ11で世界を救って、僕は現実に帰ってきたのだ。過ぎ去りし時を求めて。
再開したnoteはありがたいことにちょっとずつ読んでくれる人が増えた。今はこのnoteを頑張りたいと思ってるし、書いてるうちに段々と目標も見つかった。恋人はいないけれど、僕は今一番人生が充実してる気がする。
長々と書いたが、今は書くことを頑張りたいからモンハンが出来ないのだ。モンハンをすることで僕の足が止まってしまうのが怖い。息抜き程度に出来ないから僕は駄目なのだ。きっとやったらハマってしまう。
でも、おじさんには申し訳ない気持ちもある。おじさんは優しいから聞かないけれど、僕の感想を待ってるはずだ。年内、年内のうちには1回はモンハンをしよう。それまでおじさん、どうか待ってて下さい。