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ついに矯正生活始まる

文学フリマが終わって僕の2024年は終わったようなもんだと思っていたら、カレンダーを見てまだ大きなイベントを控えていることを思い出した。歯の矯正。今年、これをするためにあれこれ動いていたではないか。文学フリマのことで手一杯ですっかり頭から抜けていた。

今日ついに歯医者で矯正器具を付けてきた。これを付けるのに2時間も僕は拘束された。

まずは先生が歯を綺麗に磨いてくれる。歯磨き粉がほんのり甘くて美味しかった。隣りの子供には「ブドウ味、ストロベリー味どっちがいい?」と聞いていたのに、大人の僕には聞かれなかった。だから、どっちの味で磨かれたのか僕には分からない。どっちか教えて欲しかったけど、流石に聞けなかった。

歯を綺麗にしたら、ワイヤーを付けるために歯のひとつひとつにブラケット(矯正装置)を付けていく。これを接着剤で1個ずつ付けていくので、時間がかかった。僕は黙って口を開けていればいいと思っていたら、先生から「開けて下さい」「噛んで下さい」と指示が多くて大変だった。旗揚げゲームみたいだ。

「奥歯で噛んで下さい」

先生にそう言われた時は、一瞬その意味を考えてしまった。歯を食いしばれってこと?僕は顎に力を入れて噛む。先生から「そうです」と一言。旗揚げゲームはなんとかミスなくクリア出来た。

奥歯にブラケットを付ける時はもっと大変だった。先生が僕の口の端に指を引っ掛けてビィーと伸ばす。先生は女性だが結構な力強さ。先生、口が裂けます。しまいには、指を引っ掛けながら道具を探している。アシスタントに「あれないから持ってきて」と冷静に指示を出す。

先生、今は指を離してもいいんじゃないでしょうか。そんなことは口が裂けても言えない。いや、本当に裂けたら困るけど。

上の歯が終わったら休憩、下の歯が終わったら休憩と休みを取りながら付けていった。それが終わるとついに、先生がワイヤーをしゅるしゅると通していく。ワイヤーの付け始めは痛いと聞いていたから、ビビッていたけど案外痛くはなかった。ちょっと引っ張られてる感覚はあるけど、痛くて泣くほどではない。でも、初回だから先生が緩めのワイヤーを付けたと言っていた。本当の恐怖はこれからかもしれない。

先生に手鏡を渡されて自分でも歯を確認してみる。矯正器具を付けた自分と初めての対面。まず見て思ったのは「意外と目立たないじゃん」ということであった。

僕の矯正のイメージはファインディング・ニモの歯医者の女の子で、あれくらいごつい器具を付けるのかと思ったら、普通だった。ブラケットは透明だし、下の前歯には歯並びが悪くてまだブラケットは付いていないから遠目からは矯正していることは分からない。

良かったと思って、散髪を終えた時のように「はい、大丈夫です」と手鏡を返した。よし、これでもう終わりだな。そう思っていたら、先生がある物を手のひらで見せてきた。

「ちくわさんには毎日顎間(がっかん)ゴムを付けてもらいます」

顎間ゴム、聞いたことのない言葉である。僕は下顎がちょっと後ろに下がっているらしく、そのせいで嚙み合わせが悪いから輪ゴムを使って矯正するのだと言う。上の歯と下の歯のブラケットに輪ゴムを引っ掛ける。これを食べる時、歯を磨く時の以外の時間、必ず付けるようにと言われた。

顎間ゴム、かなり面倒くさそうだぞ。

僕がマウスピース矯正ではなく、ワイヤー矯正を選んだのは自分の意思では外せないからだ。マウスピースだったら自分で管理しないといけないから、面倒くさがりの僕は付けなくなるのが容易に想像出来る。ガッチリ、ドッシリと固定してもらった方が僕には合っている。それなのに、ここにきて自分でやる作業が出来てしまった。食べる前に輪ゴムを外したり、付けたりするだって?面倒くさがりの僕に出来るわけないだろ!

「付けないと逆に歯が前に出ます」

先生の口から恐ろしい一言。「逆に」に続く言葉至上、一番怖いかもしれない。やるしかないのか。

僕はアシスタントの女性と一緒に手持ち鏡を見ながら、輪ゴムを付ける練習をした。輪ゴムを付ける歯は決められていて、ブラケットにフックが付いてる。そこに引っ掛けるようにして輪ゴムを付けるのだが、上手く出来ない。中々引っ掛からず、輪ゴムを彼方に飛ばしてしまう。慌ててアシスタントの女性が新しい輪ゴムを出してくれる。

「私が見てない方がいいですよね。プレッシャーになってますよね。焦らずゆっくり着けましょう」

アシスタントの女性はもう見ませんと後ろに一歩下がる。いや、見ていてくれ。ひとりにしないでくれ。全然上手く出来なくて、何回も輪ゴムがパチンと歯に当たる。見かねた女性がまた一歩前に出る。

「ちくわさん付ける歯が間違ってますよ。隣りの歯です。フックが下に付いてます」

鏡をよく見ると隣りの歯にはフックが付いていた。こんなところにあったのね。僕はそこに無事輪ゴムを通した。輪ゴムが付いてたら喋りにくそうだなと思ってたけど、意外と伸びるので問題なく、喋ることが出来た。顎間ゴム君、これからよろしく。

これで今日は本当に終わり。矯正器具を付けるのに2時間ちょっとかかった。いい映画が1本見れる時間である。あれこれ付けた先生の方がよっぽど大変だったと思うから先生には感謝したい。

お会計は3万円だった。これから来るたびに3万円を2年間かけて支払いする。結構な出費になるから節約していかなければならない。

矯正生活も慣れるまで大変そうだ。ご飯を食べたらブラケットに食べかすが付くし、それを取ろうと舌を動かしたら舌から血が出た。歯を磨くのもブラケットが邪魔で一苦労。丁寧に歯を磨かないといけない。この生活が今日から2年間も続くのかと思うと途方も無さに泣きたくなる。こりゃあ、大変なものに手を出してしまったぞ。

でも、今日から僕は綺麗な歯に生まれ変わるんだ。僕の歯は斜めに生えているからそいつらを時間をかけて起こしていく。呑気に寝ているのも今のうちだぜ。全員、綺麗に整列させてやるよ。お金と時間はかかるけど、2年後に歯を出してニカッと笑えるようになれたらいいな。


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