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明治神宮が好きさ

一月の終わり、ひとりで明治神宮に参拝に行った。僕は明治神宮が好きで毎年数回は訪れる。去年も文学フリマの前に一度行った。明治神宮は東京の中心にあるにも関わらず、静かに佇んでいるところが好きだ。森林に囲まれて、夏に訪れると空気がひんやりしていて気持ちがいい。避暑地にもなる。

初詣も落ち着いた頃だと言うのに、明治神宮には沢山の人が訪れていた。観光スポットとしても人気なのだろう、外国人も多い。

まずは参拝の列に並ぼう。列はそこまで長くはない、五分もあれば参拝出来る。僕の後ろには関西から観光に来たと思われる大学生の男の子二人組がいた。

「綺麗に列作って、帰り道もあって流石東京やな」
「大阪では考えられへんで」

関西大学生が等間隔に四つ列が出来ていることにやけに関心していた。別に東京だからってわけじゃないと思うけど、そもそもこんな神聖な場所で横入りしてまで並ぼうとする罰当たりな人はいないだろうし。

「あぁ煙草吸いてぇ、今煙草吸ったら縁起悪いやろか」
「やめとき、神様もビックリすると思うで」

「うん、やめとき」と僕も心の中で呟く。関西大学生が思ったことをそのまま口にしているのが、おかしくてつい聞き耳を立ててしまう。

「お参りって二回礼するんやっけ?一回やっけ?」
「確か二回ちゃう?」
「前の人よく見とこーや」

一瞬ドキリとする。前の人、つまり僕だ。こいつら僕を参考にお参りしようとしている。「二礼二拍手一礼」だよな。何回も参拝しているけど、改めて問われると分からなくなる。急に手に汗が滲む。くそ、関西大学生め、余計な緊張与えやがって。

僕の番が来て、お賽銭を投げ入れる。そして、丁寧に二回お辞儀をして、二回手を叩いた。後ろから「やっぱり二礼や」と声が聞こえてきた。僕は自分の参拝に集中して願いを込める。少々長めに拝んでしまった。参考にさせてあげたのだから、それくらいは許してくれ。

自分の参拝が終わると、何となく関西大学生がきちんと出来ているかを見届けて、その場を後にした。

次は御朱印を貰おう。深大寺で買った御朱印帳には少しずつ御朱印が増えている。明治神宮の御朱印も是非貰いたい。

明治神宮の授与所は初詣の時期は混むからなのか、本殿から離れた場所にあった。原宿方面、参宮橋方面それぞれ二か所置いてある。帰りは小田急線から帰ろうと参宮橋方面へ向かって歩き出す。こっちは原宿方面よりも人が少なくて歩きやすい。木々の隙間から光が射して、足元がキラキラと輝く。木漏れ日が綺麗だなと思っていると、前には参拝を終えた家族が立ち止まっていた。歩くことを放棄した男の子がお父さんに引きづられている。

「ほら、自分の足で歩きなさい!」

引きづられて男の子の靴からじゃりじゃりと音が鳴る。子供の顔は不貞腐れている。

分かるよ、子供にとって初詣なんてこれぽっちも面白いものではないよね。僕も子供の頃嫌いだったもの、わざわざ人ごみに出たくないと思っていた。それが大人になった今では御朱印帳を持ってあちこち回っている。大人になると神様に縋りたいこと、沢山あるんだよ。

僕は「お父さん頑張って!」と心の中で声援を送りながら、その親子を抜かして授与所に辿り着いた。初詣も落ち着いた頃だから、並ばずにすぐに御朱印を貰えたのは良かった。巫女さんが筆でさらさらと御朱印を書いてくれた。

字が美しい

字が惚れ惚れするほど綺麗。印刷された字かと疑ってしまうほどだ。これは大事にしなければと御朱印帳を閉じる。今度はおみくじを引く。僕は明治神宮のおみくじも好きなのだ。

明治神宮のおみくじは凶吉を占うものではない。大御心おおみごころとして和歌が書かれている。これがいつもその時に欲しい言葉をくれて、はっとさせられるのだ。僕はその言葉を財布の中に入れて大事にしている。

おみくじを振ると、二六番が出てきた。初めて出た和歌だ。

茂りたるうばらからたち払ひても ふむべき道はゆくべかりけり

トゲのある困難な道でも人として正しい道は、強い信念を持って進んでいけ!ということである。やっぱり自分の”今”にあった言葉が出てくるのが不思議である。よし、ちょっとやそっとのことで弱音を吐かないぞ!と決意を新たにして、財布におみくじをしまった。

いつの間にか先ほどの家族も追いついて、おみくじを引いている。歩くことを放棄していた男の子も豪快におみくじの箱をガシャガシャと振っている。出てきたおみくじをお母さんがさっと読み上げた。

人ごとのよきもあしきも心してきけば わが身の為とこそなれ

「ほら、人の話を聞けって書いてあるよ!!」とお母さんが笑い出す。凄い流石、明治神宮。小さい子供にもぴったり合った言葉が出てくる。男の子はおみくじの箱から棒を出すことには夢中だったけど、おみくじ自体には興味を示さず、ぽかーんとしていた。

いつか君にも明治神宮の良さが分かるはず。それまでちゃんとお父さんとお母さんの言うことを聞くんだよ。男の子は結局、お父さんに抱き抱えられて帰っていった。

僕も帰ろう。大人だから自分の足で一歩ずつ。



僕のエッセイは時系列がバラバラなので、1ヶ月前のことを書きました。昨日は鎌倉で御朱印巡りをしました。これも書きたいですが、あんまり神社仏閣の話が続いてもねぇという感じなので、また一か月後に書くかも…(笑)順調に御朱印貯まっています。


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