見出し画像

【第53回】「てんでんこ」の共助の意味

質問 「てんでんこ」の共助の意味について教えてください。

概要

 ①「てんでんこ」とは
 ②「てんでんこ」の多面的・重層的な意味
 ③「てんでんこ」の共助の意味の重要性
 ④釜石の出来事

解説

①「てんでんこ」とは

 「てんでんこ」とは、1896年の明治三陸地震津波、1933年の昭和三陸地震津波、1960年のチリ地震津波、2011年の東日本大震災津波等昔から何回も津波の被害にあっている三陸地方で語り継がれてきた言葉です(同様の意味で現在は「津波てんでんこ」等とも言われています。)。
 「てんでんこ」とは、「各自」とか「めいめい」を意味する言葉で、津波が起きたら「てんでんこ」というように使われます。つまり、津波の際には、てんでんばらばらに一刻も早く高台に逃げるべきであるという意味になります。ただし、この言葉には、自分の命は自分で守るという自助の意味のほかに、家族やコミュニティのための共助の意味が含まれている点が重要です。

②「てんでんこ」の多面的・重層的な意味

 地区防災計画学会の副会長である矢守克也京都大学教授は、被災地等での調査研究を踏まえて、この「てんでんこ」には、4つの意味があることを指摘しています。
 一つ目は、「自分の命は自分で守る」という自助の原則の意味で、てんでんばらばらに一刻も早く高台に逃げるべきであるという意味です。三陸地方では、過去何回も大津波で家族、親族等が「共倒れ」する悲劇があったことから、やむにやまれず生み出した「哀しい教え」である点に留意が必要になります。
 二つ目は、避難は自分のためだけの行為ではなく、他者の避難を促進する、つまり、自分が避難する様子を他の人が見ることによって、他の人にも避難を促す効果があり、自分が助かることは他人を助けることでもあるという意味です。
 三つ目は、自分が「てんでんこ」することは、他の人が「てんでんこ」することにもつながるという相互信頼の事前醸成の意味です。つまり、家族やコミュニティ等の大切な人たちと事前に「津波の時は「てんでんこ」をしよう」と申し合わせておくことで、互いに早期に避難をしているはずと信頼しあう関係が形成されるということです。
 四つ目は、家族やコミュニティ等の人々の間で、亡くなった人から生き残った人への「逃げてよかったんだよ」というメッセージの意味があるとされています。これによって、大切な人たちと「てんでんこ」を約束しておくことで、生き残った人が「自分が助けにいければ」というような罪悪感を抑制し、発災後の復旧・復興に当たっての人間関係の修復の意味もあるとされています。

③「てんでんこ」の共助の意味の重要性

 しかし、一つ目の自助の点のみが誤解されて強調されるようになり、他人にかまわず逃げるという点が、「利己主義」だと誤解されている点が問題だとされています。
 この言葉は、本来、行政が住民に対して強調するような言葉ではなく、祖父が孫に伝えるような家族内、コミュニティ内等の共助による人間関係を前提にした言葉である点に留意が必要です。発災時に、家族や親しい人々が互いを探し合い、逃げ遅れて共倒れになってしまうことを防ぐ、一族やコミュニティが全滅してしまうことを防ぐ、自分たちの地域や家族は、自分たちで守るという家族、一族、コミュニティ等の中での極めて特別で重大な共助の言葉です。
 つまり、発災時に備えて事前に家族等の避難行動について話し合って決めておくことで、家族等を探しに家に戻ったりして、家族等が逃げ遅れるのを防ぐ目的が一番にあるのです。

④釜石の出来事

 この「てんでんこ」の例として、2011年の東日本大震災の際に岩手県釜石市の小中学校の児童生徒たちが、日頃からの防災訓練等を踏まえて避難した「釜石の出来事」があります。
 児童生徒たちは、地震が発生した際に、避難に当たり、周囲の住民に一緒に避難することを呼びかけ、コミュニティの高齢者や小さい子供の手を引いて、一緒に高台に率先避難したことで知られています。

文献
・金思穎・福岡大学防災行政研究会ほか,2018,「第23回研究会印象記」『地区防災計画学会誌」第11号.
・矢守克也,2013,『巨大災害のリスク・コミュニケーション 災害情報の新しいかたち』ミネルヴァ書房.

・片田敏孝,2021,『人が死なない防災』集英社新書.


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集