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「ノートはすき間を開けて、大胆に使おう」は間違い?マラウイの小学校のノート指導の当たり前


「ノートはすき間を開けて、大胆に使おう」

日本の小学校で、そんな指導をしていたことがある。
きちきちに詰めて書くより、行を開けて広く大きく使った方が見やすく、必要に応じて付け足して書くことができるから。

「1授業をノート見開き1ページにまとめましょう」
なんてことも、校内のルールで決めた年もある。

確かにそう提案している先生のクラスのノートはそうなっていた。見開きの左ページ上の方には青四角で囲まれた「学習課題」があって、右ページ下の方には赤四角で囲まれた「本時のまとめ」があるのが、良いノートのまとめ方。

先輩の先生にそう教わっていたし、周りの先生方もそうしていた。特に反論するほどの理由も持ち合わせていないし、まあそんなもんか、と。「ノートはもったいない使い方の方が学力は上がるから」なんてくぎを刺されていた。

腹の奥に残っていた違和感

ただ、腹の奥の方に多少の違和感は残っていた。
「そうは言っても、やっぱりもったいないのでは…」

なぜなら、見開き1ページで足りない授業もあれば、片側1ページで終わってしまうような授業の日もあるからだ。見開き1ページにぎりぎり入りきらなくて、次のページにほんの数行だけくいこんでしまった時なんて最悪だ。その次の授業で見開き1ページにしたいがために、1ページ半以上空白のまま残してしまうことになる。

「ドリルの練習問題なんかを繰り返し練習するときに、そういうもったいないページを使ってね」と、子どもたちには一応言っておくのだった。でも、今のノートをいち早く使い終え、新しいノートを使いたがる子どもたちには、なかなか通用しない。

マラウイでは通用しなかった日本のノート指導

マラウイに来てみたら、子どもたちはみんな、ノートにびっしり詰めて書いていた。教科ごとにノートを分けることもせず、全ての教科を1冊のノートに書き込んでいく。

「もっとすき間を開けて、大胆に」と、日本式ノート指導をマラウイの小学校の先生たちに教えてあげようかと思ったが、よくよく観察して見るとそんなことを言える状況ではないことが分かった。

中にはそもそもノートを持っていない子もいる。「なんでノート持っていない子がいるの?」とマラウイ人の先生に聞くと、「忘れた子もいるだろうけど、ほとんどは経済的に持ってこられない子だろうね」と教えてくれた。マラウイ首都の大学附属小学校でさえそんな状況だった。

他の隊員が活動する農村部に見学に行ったら、大多数の子どもがノートを持っていない教室もあった。マラウイの子たちにとっては、ノートはとても貴重で、節約して使うのが当たり前なのだ。

そんなマラウイでは、日本式のノート指導が通用するはずもない。

同期が目をつけた無限練習帳「スレート」

同期の協力隊員が、配属先の小学校の倉庫に眠っていた「スレート」に目をつけていた。

スレートは、かつて日本の学校でも使われていて「石板・石盤」と呼ばれていた。ハンディタイプの黒板のようなもので、ろう石で文字を書いては布切れなどで消し、繰り返し何度も使える、いわば「無限に使える練習帳」だ。

手元に記録が残らないので、ノートの完全な代わりにはならないが、小学校低学年の繰り返しの文字の練習や計算練習などにはもってこいの学習用具である。

18世紀末に欧米で使われ始めたスレートが、日本に導入されたのは明治5年(1872年)。1950年代に小学生だった母が、低学年の時にノートと併用して使っていた経験があるそうだから、少なくともその頃までは残っていたことが分かる。

ノートと併用するなんて、なんだか現代のタブレットPCの使い方に通じるものがある。

石盤(スレート)と石筆(ろう石) 
(きみつアーカイブス 相川資料館収蔵品より)

さらにさかのぼって江戸時代には、箱の中に平らに盛った砂に、指や棒で文字の練習ができる「砂書習字手文庫(すながきしゅうじてぶんこ)」というものがあった。かの、二宮尊徳(1787-1856)も使っていたそうな。当時、非常に貴重だった和紙を消費することがないので、経済的でエコだ。

「木造 砂書習字手文庫」
おだわらデジタルミュージアム(収蔵先:尊徳記念館)
https://odawara-digital-museum.jp/selection/sontoku/52/

マラウイかけ算ソングにも登場する「スレート」

マラウイの小学校で見た「スレート」は、ファイバーボード製の板に書き込むタイプで、下半分にマス目も入っているスレートの進化版だった。本来のスレートと素材は違うが、繰り返し使うという用途は同じだ。

実は、私が作ったマラウイかけ算ソングのミュージックビデオにも「スレート」で100マス計算をする子どものシーンが出てくる。

UNICEFをはじめとする国際機関などからの寄付で、マラウイの小学校の倉庫に保管されているものの、使い道が知られていなかったり、その存在自体忘れ去られてしまっていたりして、あまり活用されていないのが現状。ノートが全員に十分あれば必要ないのかも知れないが、まだまだ不足しているマラウイにおいては活用の余地がある。

「かけ算九九」などの反復練習には持ってこいの道具だということ、紙のノートを効果的に節約できてエコにもつながるということを、マラウイの先生にも知ってもらいたい。そんな思いを込めて、ほんの少しだけれど、このシーンを入れてみた。

「スレート」登場シーンは1分25秒と5分59秒あたり
マラウイかけ算ソング『Tidziwe Multiplication』より

ぜひそんなところにも注目して、「マラウイかけ算ソング」をご覧いただけたらと思う。


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