読書録: 『潜入ルポ amazon帝国』

こういう類のルポ記事は、話を盛って書いていることもあるのですべてを信じるわけにはいかない。だが、様々な人に取材していく中で、彼らがポロリと漏らした本音は、とても興味深い。この本でも、個人的に印象に残ったのは、amazonに関するトピックではなく、取材を受けた方々の、様々な立場から漏れる本音だった。いくつか紹介したい。

 トラックドライバーの運転手にとって、配置換えは恐怖だという。なぜなら、

ある程度のスピードで配達できるのも、コースの道を全部知っていて、お客さんの家族構成や行動パターンまで頭に入っているからなんです。(中略)ドライバーにとって、異動になるということは、まったく違う会社で一から始めるのと同じ……(中略)……だから、人事権を持った支社長などの上司には、言いたいことも言えない状態になってしまいます。

また、ロボットが導入されたAmazonの倉庫でバイト(潜入取材)をした記者はこう語る。

ロボットが入ってきたことで、働く人間にはより窮屈になった。機械が仕事の主役となり、仕事から人間性をさらに奪い取っていく感じだった

また、AWS(Amazon Web Service)を使って、顔認識機能を活用している企業の社長はこういう。

卒園アルバムは、先生や保護者が写真を選びレイアウトを考えることが多いが、それが負担になっていた。特に、子どもたちが平等に映っているかをチェックする作業に多くの時間を取られていた。

自分が普段あまり接しないような人々が抱える課題に気づけるという意味で、ルポ系の本は刺激になる。

 前半は、著者自身がAmazonの倉庫でバイトをすることで感じたことや、Amazon関係者に話を聞き、宅配ドライバーに同乗することで得た情報をまとめており、読みごたえがある(第3章くらいまで)。第4章から第5章にかけては、記者から聞いた話や、web上の動画や過去の本を見てまとめた話が続き、少し面白みに欠けた(正直、第5章はなくてよかったんじゃないだろうか)。後半はそれなりに面白かったのだが、やはり、前半の「実際に体験して感じたリアル」には劣ると思う。

 マーケティングでも著作でもそうだが、「解像度の高さ」という言葉で表されるような、「いかに臨場感をもって伝えられるのか」ということの重要性を、良くも悪くも感じた一冊だった。

【おすすめ度】★★★☆☆


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