映画「窓辺にて」感想
一言で、村上春樹・フランス映画風な大人のラブストーリーです。喫茶店の描写は印象に残りましたが、全体的には長回しで冗長、面倒な人々のファンタジーだと思います。描写から深読みしたい人は楽しめるかもしれません。
評価「C」
※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。
本作は、『愛がなんだ』・『アイネクライネナハトムジーク』・『mellow』・『his』・『あの頃。』・『街の上で』などで知られる、今泉力哉監督最新作です。
「今泉ワールド」の特徴でもある、等身大の恋愛模様に加えて、「好きという感情そのもの」についても深く掘り下げる「大人のラブストーリー」を描いています。
2022年の東京国際映画祭では観客賞を受賞し、ミニシアター系作品の中では話題作で、口コミ評判が良かったので鑑賞しました。
・主なあらすじ
フリーライターの市川茂巳、彼は妻で編集者の紗衣が担当の売れっ子小説家である荒川円と「浮気」していることに気づきます。しかし、彼女にそのことを伝えられず、また「何故か怒りが湧かない」という感情に戸惑う日々を過ごしていました。
ある日、茂巳はとある文学賞の授賞式で高校生作家の久保留亜と出会います。彼は、受賞作である小説『ラ・フランス』の世界に魅了され、留亜に「作品のモデルが誰か」を尋ねようとします。
・主な登場人物
・市川茂巳(いちかわ しげみ)〈45〉
演 - 稲垣吾郎
フリーライター。過去に唯一『STANDARDS』という小説を執筆していました。また、妻の浮気を知りながら「怒りを感じない」ことにショックを受け、考え込んでいます。
・市川紗衣(いちかわ さい)〈37〉
演 - 中村ゆり
茂巳の妻であり、編集者。茂巳がその後小説を書かないのを気にしています。実は人気小説家の荒川円と不倫しています。
・久保留亜(くぼ るあ)〈17〉
演 - 玉城ティナ
高校生作家。『ラ・フランス』で「吉田十三賞」を受賞しました。受賞会見で、きちんと作品を読んで質問した茂巳に好感を持ち、親しくなります。
・有坂正嗣 / マサ〈33〉
演 - 若葉竜也
茂巳の友人。プロスポーツ選手ですが、現在リハビリ中、モデルでタレントの藤沢なつと不倫しています。
・荒川円(あらかわ えん)〈33〉
演 - 佐々木詩音
紗衣の担当の人気小説家で、紗衣の不倫相手です。
・三輪ハル〈66〉
演 - 松金よね子
紗衣の母親。一人暮らしを案じた茂巳がよく訪れます。
・水木優二(みずき ゆうじ)〈21〉
演 - 倉悠貴
留亜の彼氏で『ラ・フランス』のモデルの一人です。
・カワナベ 演 - 斉藤陽一郎
留亜の伯父で山の小屋で暮らしています。元テレビマン。やらせ疑惑で心を病み、失踪してしまった元同業者の弟(留亜の父)の代わりに、何かと姪を気にかけます。
・有坂ゆきの〈30〉演 - 志田未来[5][6]
マサの妻。
・有坂景(ありさか けい)〈4〉
演 - 松本紗瑛
マサとゆきのの娘。
・藤沢なつ(ふじさわ なつ)〈24〉
演 - 穂志もえか
モデルでタレント、マサの不倫相手。
1.村上春樹小説、フランス映画らしさが溢れている。
本作を観て真っ先に感じたのは、「村上春樹小説の映像化」であり、「フランス映画」っぽさでした。
多分、村上春樹氏の『1Q84』・『ねじまき鳥クロニクル』・『ノルウェイの森』や、彼の作品を原作とした映画『ドライブ・マイ・カー』が好きな人は嵌りそうです。尚、撮影は『宮本から君へ』や『ドライブ・マイ・カー』の四宮秀俊氏なので、妙に納得しました。
また、「展開がのっぺりで冗長で緩慢」な点はフランス映画を意識した創りかなと思いました。元々、今泉監督は「カメラの長回し」が多いそうですが、本作はそれが顕著でした。140分という上映時間はやや長かったです。
それから、「道ならぬ恋」を赤裸々に描いたり、本やパフェや写真など、「その場の情景や会話、物を楽しんだりする」点もフランス映画らしいです。
そして、「編集」がテーマなら『舟を編む』、女子高生の小説家なら『響 〜小説家になる方法〜』/『響 -HIBIKI-』を思い出しました。
つまり、本作は、上記の作品の要素を組み合わせて、村上春樹氏風に味付けした作品のように感じました。※ただ本作は、今泉力哉監督オリジナル脚本なので、「原作小説」はありません。
個人的には、稲垣吾郎さんが主演した『ばるぼら』の要素もちょっぴりありそうです。おじさんと若い女性の交流が。でも、本作は『ばるぼら』のようは激しい性愛の話ではありません。
本作、一般的な評価は高いですが、意外と人を選ぶと思います。私は、嫌いじゃないけど好きでもなかったです。そこまで内容に共感も感動もせず、評価の高さの割には「今一つ」だなぁと思いました。
2.リアリティーはあるようでなく、ファンタジーに近い作風である。
本作は、現実世界の話ではあるものの、リアリティーはあるようでなく、ファンタジーに近い作風でした。
特に、留亜のキャラクターがいかにも「二次元の女性」という感じがして、あまり現実味がなかったです。
可愛くてどこかエキゾチック小悪魔系な不思議ちゃんで、それでいて人気小説家で、でもどこか人生に諦観していて、子供と大人が共存しているように見えるのは玉城ティナさんの魅力かなと思います。『レオン』のマチルダっぽいというか。
しかし、彼女の両親は既にいないのにどうやって生活していたのか、その辺の生活が見えてこなかったです。あの伯父さんと同居?、それとも一人暮らし?仮に、作家の収入はあったから自活できていたとしても、高校はどうしてたの?(まぁ、伯父さんからの援助はあったのかもしれませんが。)
そして、あのチャラ彼氏の水木とはどこで出会ったのか?二人の何が釣り合っていたのかもわかりません。それでも、留亜が茂巳と水木を仲良くさせようとして、「男同士でバイク2ケツ」させたところは、あまりにもシュール過ぎて笑いました。
うーん、ファンタジーが好きな人は本作に付き合えるのかな。
そういえば、稲垣吾郎さんも玉城ティナさんも左利きなんですね。
3.「メンドクセェ奴らによるメンドクセェ物語」である。
本作は、大人のラブストーリーとのことですが、とにかく登場人物達の会話がまどろっこしく、5分おきに「メンドクセェ」と言いたくなりました(笑)。
基本の会話が以下のパターンで構成されていますね。
「私、○○なんですけど、これどう思います?」
「じゃあ、君はどう思うの?」
このように、「質問を質問で返す応答」が、時と場所、人を変えて何度も繰り返されました。ある意味、ジョジョの吉良吉影が見たら怒りそうな作品でした(笑)
結局、皆答えを求めているようで、実は自分の意見に同意してほしい、背中を押してほしい、みたいな「ガールズ・トークに有りがちな会話」を繰り広げているような感じを受けました。
4.不倫されても「怒りが湧かない」ってどういうこと?
茂巳は、妻の紗衣の不倫を知りつつも、「怒りがわかない」ことに戸惑っていましたが、実際これってどういうことだったのでしょうか?
最初は『そばかす』の主人公みたいに「元から恋愛感情が湧かない」のかなと推測していましたが、どうもそうではなさそうです。
一方で彼は、留亜の伯父から「プライドが高い」と言われたり、水木に「サイコパスですか?」とツッコまれたりしてました。本人はそれを否定しますが、ある意味「自分以外に価値が見いだせないエゴイスト」なのかもしれません。結局、「自分にしか関心がない」から、妻の浮気にも嫉妬や怒りが湧かないのかしら?
だから、「自分以外に価値が見いだせないなら、早く相手を開放してあげればいいのに、それもしないのはズルい」といった意見があるのもわかります。
5.茂巳と留亜、「プラトニック(清い)」だけど、2回りくらいの歳の差にどこか「心がザワザワ」する。
茂巳と留亜はよく二人で行動をともにするのですが、「この匂わせるようで匂わせてない?一線を超えそうで超えない?」描き方、実際は「清い関係」だけど、どこか「そうじゃない?」とも思わせてしまうマジックがかかっていました。茂巳は「妻が不倫してる」と言ってましたが、貴方もどこか「グレー」な感じはするんですよね。
いやー流石に2回り、下手したら親子くらいの歳の差だと、「色んな事」を考えてしまいます。せめて高校卒業後とか、『ドライブ・マイ・カー』の渡利みさきみたいに、確実に20歳以上とかならまだしも、「女子高生」と言われると、何か「含み」があるように感じてしまうのです。子供では大きいけど、まだ大人じゃない、それくらいの年齢だからこそ出せる「危うい雰囲気」も感じられました。
しかも、彼氏にサシで会うなって言われたのに、茂巳と会い続ける留亜。
果たして、留亜→茂巳はどんな気持ちだったのでしょうか?「恋愛感情」ではないなら「父性」とか?実際に、幼くして早くに父と離別してますし。それじゃないなら、「同業者のおじさん」くらいでしょうか?
6.喫茶店が好きな人は嵌まるかも。
本作で良かったのは、喫茶店の描写です。パフェが美味しそうでした。後は、コーヒーとホットミルクも飲みたくなります。水木の「ホットミルク700円は高くないですか?」には笑いましたが、言いたいこともわかります(笑)。やはり、「そこにあるものを楽しむフランス映画」らしい作品だなぁと思いました。
そういえば、喫茶店で留亜が「パフェってフランス語で『パーフェクト』って意味ですよね。でも、私はチーズケーキのほうが『パフェ』だなぁ。パフェは色んなものの詰め合わせだけど、チーズケーキはそれだけで「完成」している感じがするから。だから、食べちゃったっていう罪悪感が増すんです。」なんてウンチクを傾けていました。彼女、感性人間と思いきや、理屈っぽい性格にも見えます。やっぱり掴みどころがない子だなぁと思いました。
7.至る所から溢れる「生々しさ」、直接描写はないけれど、これって監督のフェティシズムかしら?
本作は、至る所から「生々しさ」が溢れていました。「直接描写」はないけれど、これって監督のフェティシズムなのか?と感じるほどでした。
まず、ラブホテルが出過ぎだし、みんな寝過ぎですね。(レーティングは「G」指定なので、ベッドシーンはありません。また、茂巳と留亜は「そういう関係」にはなりません。)
個人的には、マサと荒川がどちらも「スラッとした細身の体系・ショートヘア・濃い髭面」だったので、時々見分けがつかないときがあり、話を理解するのにちょっと混乱しました(笑)。どちらも不倫マンですが。
それにしてもマサは狡いですね。最終的には、なつとはセフレで別れて、妻のゆきのとはやり直します。なつに「焼肉までですよ〜」とか釘を刺されたのに、結局ホテルまで連れ込みました。
ゆきのはそれをどこまで知ってたかはわかりませんが、「惚れちゃったんだから仕方ないですよね。私にできるのは応援するだけです。」と、マサと結婚生活を続けることを選びます。いや〜マサがまたやらかさない保証はないよ。「お尻のホクロの話」は何か生々しいし。
ある意味、若葉竜也さん、『ドライブ・マイ・カー』の岡田将生さんのポジションかな。流石に、あちらみたいに犯罪まではやらかさないけど。
果たして、彼のファンの方の気持ちはどうなんでしょうね?
それから、留亜、ラブホに茂巳を誘うなんて、高校生でしょ(苦笑)。知り合いからの手引きだとは言ってたけれど。まぁ、「やることやる」関係じゃないが故に、二人でババ抜きするシーンはシュール過ぎました(笑)。
実は「水木と別れた」と打ち明け、米津玄師氏の『Lemon』を突然歌い出す留亜。おじさんに慰めてもらいたかったのかな?でも、「あの日の悲しみさえ、あの日の苦しみさえ」のフレーズを復唱していたのは草でした。そこしか歌えないのかい(笑)!
寝るときは茂巳はソファへ、とにかく留亜とは距離を取ろうとします。翌日、シャワーを浴びる留亜ですが、ガラス張りのシャワールーム故に、その間布団を被る茂巳がシュール過ぎました(笑)しかし、突然、茂巳のスマホが鳴って、布団の中の茂巳にスマホを渡す留亜。スクリーンには裸足しか映ってないけれど、恐らく服は着ていなさそう、うーん、こっちも何だか生々しいぞ。
この辺は、やっぱり監督のフェティシズムが強いんですかね?私としては、あまり受け入れられる描写ではなかったです。
8.会話とかシュチエーションから、「深読み」したい人には向いている作品かもしれない。
本作、会話やシチュエーションの要所要所にフックとなるような独特な表現が多いので、所謂「深読み」したい人には向いている作品かもしれません。
・茂巳と義母さんとのやり取り
茂巳は、毎年、紗衣の母の誕生日を祝います。誕生日ケーキを食べている義母をカメラで毎年撮影していました。ここは好きでした。
離婚後、出戻りした紗衣はそのアルバムを見つけて何か考え込みます。もうそのアルバムは「更新」されることは無いのでしょうか?もしそうなら、何だか切ないです。
・茂巳が乗ったタクシー運転手の話
「競馬かぁ…馬って、俺達と同じようにいつも走らされているから『可哀想』に思うんです。」、「パチンコって一番贅沢な趣味だと思いますよ。だって玉が出るんだから。」
ここは、社畜である自分への、そしてフリーランスである茂巳への皮肉でしょうか?
・喫茶店にて、留亜が水が入ったグラスを光にかざして、手に映る「光の輪」を「指輪みたいだね」と話します。そして、最後に茂巳も同じ行動を取ります。
光の輪は、光の中に影がないとできないけど、影が大きくてもできないです。また、光の加減によって、できてもすぐに消えてしまいます。
ここは、「指輪を外す」・「離婚する」、ことへの暗喩でしょうか?結婚は「安定」でも、「永遠」でもないから。
・留亜伯父→茂巳→荒川に渡された川の石
森のコテージにて、留亜伯父から「この石、持ってると良いことがあるみたいですよ。」と茂巳に渡された川の石。最後、茂巳はそれを荒川に渡しました。
石は「過去に置いてきた思念」で、それを手放すことで、心のモヤモヤを昇華しようとしたのかな、なんて推測しました。留亜伯父は「失踪した弟への後悔」、茂巳は「別れた妻との思い出」なのかなと。それを荒川に渡すなんて、何か意味深だなぁ。
実際に、荒川からは「紗衣さんとの時間が大事だったから、その間は本を書かなかったんですか?」なんて聞かれてたし。紗衣と別れたことで、また書き始めるのかな?
最後に、本作、個人的にはそこまで嵌まりませんでしたが、要所要所印象に残ったシーンはありました。好きな人は好きな作品だとは思います。
出典:
・映画「窓辺にて」公式サイト
※ヘッダーは公式サイトより引用。
・映画「窓辺にて」公式パンフレット
・映画「窓辺にて」Wikipediaページ