映画「THE FIRST SLAM DUNK」感想
一言で、宮城リョータの成長物語だけど、同時に家族の再生の物語でもあります。また、公開前に物議を醸していた点は、実際はさほど気にならず、寧ろスクリーンから伝わるバスケの格好良さ、試合の臨場感が素晴らしかったです。幅広い年代に受けたのも納得でした。
評価「B」
※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。
『SLAM DUNK』は、週刊少年ジャンプ(集英社)にて、1990年42号から1996年27号まで連載された、井上雄彦氏による少年漫画です。
高校バスケを題材に、選手達の人間的成長を描いたストイックなストーリーが大ヒットし、国内におけるシリーズ累計発行部数は1億2000万部を超えています。その面白さから、バスケを始める少年少女が続出しました。
連載終了後10年を経た2006年には、文化庁によるアンケート企画「日本のメディア芸術100選」においてマンガ部門1位に選出されています。
また、「あきらめたらそこで試合終了だよ」などの登場人物の数々の名言がとても印象に残り、ピンチのときに救われる言葉として、現在もよく耳にすることが多いです。
そして、神奈川県鎌倉市を走る江ノ島電鉄・駅・踏切が聖地となって、日本のみならず海外からのファンの「巡礼」も続いています。
さらに、バスケの草分け的漫画とも言われ、『黒子のバスケ』や『あひるの空』など、後続の作品達にも大きな影響を与えていそうです。
本作より前にも、1994年から1995年にかけて4回映画化されています。そして、連載終了から26年経った2022年、原作・脚本・監督を井上先生が務めた本映画が、新しい『SLAM DUNK』として、満を持して公開されました。
実は、私は漫画は未読、アニメは15話程視聴して、本作を観ました。公開前はいろんな方面で物議を醸していたので、どうなのかわからなかったのですが、実際はとても評判が良いと聞いたので、可能な範囲までアニメを観て、本映画を鑑賞しました。
だから、まだ私の中では本映画の主人公である宮城リョータは登場しておらず、ある意味先に「ネタバレ」を見た感じになりました(笑)。尚、私は本漫画のコアなファンではないので、知識不足な点があること、ご容赦ください。
・主なあらすじ
父を亡くし、幼い頃に宮城家の大黒柱となったソータ。家族皆が支え合って生きていましたが、海釣り事故により、彼は亡くなります。
夫と息子を亡くした悲しみの中で家族は沖縄を離れて神奈川に。リョータもまた兄の死を受け入れられず苦しみますが、兄弟の心の支えとなるバスケは続けていました。
そして、インターハイ2回戦、リョータは兄とともに最強・山王工業高校に挑みます。
尚、本映画は、原作の最終戦におけるインターハイ第2回戦・山王工業高校との試合及び、読み切り作品『ピアス』の設定を取り入れた宮城リョータの過去が描かれています。
・主な登場人物
1. 神奈川県 湘北高校
前々年度、前年度とインターハイ神奈川県予選1回戦敗退に終わった無名校でしたが、今年度は強力なメンバーの加入および復帰により、県予選2位の成績でインターハイ予選を通過し、インターハイでは前年度までのインターハイを3連覇した山王工業に勝利しました。優勝はできなかったものの、「全国ベスト16」の記録を残しました。
・宮城リョータ - 仲村宗悟/ 少年時代:島袋美由利
2年。身長168cm、体重59kg。パーマとツーブロの髪型が特徴的。他の選手と比較すると小柄ですが、湘北一のスピードを誇り、速攻とテクニックを筆頭としたゲームメイクを中心に、高い運動能力と小柄な身体を活かしたスピードプレイが持ち味で、湘北バスケ部の次期キャプテンといわれる実力者です。マネージャーの彩子に片思いしています。
沖縄県出身。幼い頃に父が亡くなり、小学3年生時に兄のソータも海難事故で亡くしています。母カオルと妹アンナと共に神奈川県に移住しました。
兄が一緒に釣りに連れて行ってもらえなかったことに腹を立てて、「バカ兄!! もう帰ってくるな!!」と罵声を浴びせてしまい、それが兄弟の最後の言葉になったことを、後悔しています。
・三井寿 - 笠間淳
3年。身長:184cm、体重70kg。中学で神奈川県大会の最優秀選手に選ばれた天才シューター。怪我が原因で一度は挫折し不良となりましたが、バスケットへの熱意を捨てきれずバスケ部に復帰します。
・流川楓 - 神尾晋一郎
1年。身長187cm、体重75kg。黒髪塩顔ハンサム故に、女子からの人気は高いです。中学時代からバスケットのスタープレイヤーで、花道とは「終生のライバル」です。
・桜木花道 - 木村昴
1年。身長189.2cm、体重83kg。赤い髪色が特徴的で、お調子者。バスケは初心者からのスタート。頭に血が上りやすい性格で、無作法かつ傍若無人な面が目立っていますが、驚異的な身体能力とガムシャラさが強みです。※尚、彼は原作漫画では主人公ですが、本作では脇役です。
・赤木剛憲 - 三宅健太
3年。身長197cm、体重88kg。バスケ部主将。ゴリゴリマッチョでの日本人離れした体格の持ち主です。本漫画のヒロイン赤木晴子の兄で、誰よりもバスケを愛する男。「ゴール下のキングコング」の異名を持つプレイヤーです。問題児だらけのチームを全国大会まで導いた精神的支柱です。
・木暮公延 - 岩崎諒太
3年。身長178cm、体重62kg。チームの副キャプテン。赤木と二人で、現在のバスケ部を支え続けてきました。
・彩子 - 瀬戸麻沙美
2年。姉御肌なマネージャー。不良生徒にも物怖じしない度胸と面倒見の良い性格から、チームメイトから強く慕われています。
・安西光義先生 - 宝亀克寿
顧問。「ホッホッホ」という笑い声が特徴で、かなりの肥満体型。
普段は「ケンタッキーおじさん」などと言われるほど動きませんが、いざ試合となると要所要所で的確な作戦を打ち出し、監督自ら最後まで勝ちに行く姿勢を見せるなど勝負師の顔を見せます。
見た目は穏やかな好々爺ですが、過去には逆に「白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)」と呼ばれるほどのスパルタ指導で名を轟かせた鬼監督として名を馳せ、名門大学などで指揮を取っていた名監督でもありました。
2. 秋田県 山王工業高校
秋田県代表、高校バスケ界の頂点に君臨する高校で、湘北のインターハイ2回戦での対戦相手。選手全員が坊主頭をしているのが特徴です。
・深津 一成 - 奈良徹
3年、身長180cm。背番号9。主将。非常に冷静沈着で常に試合の流れを読み、その場に応じた最高の選択を行う。広い視野とパスセンス、強固なディフェンス力を併せ持ちます。
普段は黒子役に徹しつつも、要所にて相手に傾きかけた流れを確実に呼び戻す決定的な仕事をします。
・河田 雅史 - かぬか光明
3年、194cm。「日本高校バスケ界最強のセンター」と評される実力者。
高校入学当時は165cmと小柄でポジションもガードでしたが、1年間で25cmも身長が伸び、この過程でガード→フォワード→センターへのコンバートを経験します。その結果、強力なインサイドプレーとガード・フォワード並みの技術、素早さを併せ持つ異色のプレイヤーに成長しました。
・沢北 栄治 - 武内駿輔
2年、186cm。驚異的な身体能力と1on1のスキルを持ち、1年生時から山王のエースプレイヤーに君臨する高校No.1プレイヤー。強敵との戦いに飢えており、インターハイ後はアメリカへのバスケ留学が決まっています。
本映画では、インターハイ前に自主練習の場として選んだ300段の石段の上にある神社で、個人としてもチームとしてもすでに日本ではやり尽くしたという自負から「自分に足りない経験をください」と願をかけます。
・野辺 将広 - 鶴岡聡
3年、198cm。「トーテムポールみたいな顔」という理由で、桜木花道からは「(トーテム)ポール」と呼ばれます(笑)。
リバウンド力を買われてスタメンに抜擢され、パワーと体重を生かしたスクリーンアウトでゴール下のポジション争いでは桜木にほとんどリバウンドを取らせませんでした。
・松本 稔 - 長谷川芳明
3年、185cm。「沢北がいなければ、どこでもエースを張れる男」と言われるほどの実力者。本来はスタメン選手ですが、湘北戦では一之倉と入れ替わる形でベンチスタートとなり、前半途中に今ひとつ調子の出ない沢北との交代で途中出場。後半は一之倉がベンチに下がったため三井とマッチアップしました。
・一之倉 聡 - 岩城泰司
3年、171cm。「スッポンディフェンス」の異名を持つ全国でも有名なディフェンスのスペシャリスト。チーム随一のスタミナと忍耐力を兼ね備え、相手をマークして仕事をさせません。
湘北戦では三井をマークしてスタミナ切れにする目的でスタメン出場しました。
・河田 美紀男 - かぬか光明
1年。210cm 130kg。河田雅史の弟。日本で最も大きい高校生選手ですが、体格は力士のような太った体つきで動きは鈍いです。また体格とは裏腹に気が弱く、いつもオドオドしており、兄からよく怒られます。バスケット選手として未熟な面が目立ちますが、堂本からは逸材として期待されています。
・堂本 五郎 - 真木駿一
監督。山王をインターハイ3連覇に導いた名将。「緒戦の入り方が大事」、「勝負に絶対はない」という理念を持ち、格下かつ無名の湘北との対戦を前においても研究と対策を怠らず、万全の状態で湘北に挑みます。
・宮城家
・宮城ソータ - 梶原岳人
宮城家長男。リョータとは3歳上。地域のミニバスで名選手として知られていましたが、8年前の海難事故で逝去しました。
・宮城カオル - 園崎未恵
宮城家の母。夫と息子ソータを亡くし、2人を喪った悲しみから未だ抜け出せず、それが原因でリョータと関係を上手く立て直せずにいます。
・宮城アンナ- 久野美咲
宮城家長女でソータとリョータの妹。朗らかで人当たりの良い性格で、ソータ亡き後の宮城家における潤滑油的な存在です。
1. 漫画のコマ割りを意識した作画と試合の演出に感銘を受けた。
最初の井上先生の湘北高校のメンバーのラフ画が徐々に形作られて、動き出した所で既に感激しました。
井上先生は、筆などを使い、ダイナミックに漫画を描かれますが、大きなスクリーンだからこそ、先生の作風が映えたと思います。この辺は『バカボンド』や『リアル』にも受け継がれていそうです。
本作は、一つの試合を最初から最後まで描いており、基本的にはシンプルなストーリーだと思います。 構成としては、宮城家の話と試合のシーンが交互に描写されます。
試合中、ボールを巡って体がぶつかり合う様子は、正に「格闘技」さながらでした。どちらの高校にも点数が入っていきますが、途中で引き離されたり、迫られたりするタイミングは、一々翻弄されましたね。
特に良かった演出が、最後の試合描写、無音やスローモーションを挟んだところです。それによって、我々観客も臨場感や一体感が出ました。勿論、原作漫画より、結果は「知っていても」、果たしてどっちが勝つのかドキドキしそうですね。既読・未読に関係なく、最初から最後まで楽しめるんじゃないかと思います。
2. 90年代当時のアニメと、本映画で変わった点は多かったけど、そこまで気にならず。
公開前は、作画や声優で物議を醸していましたが、蓋を開けたら楽しんでいる人が多くて良かったです。
作画は、昔のアニメとは当然違いました。それはアニメ技術の向上故だと思いますが、今の時代だからこそ見やすい絵になっていました。
声優さんは変わりましたね。ここも、そこまで気にならず。前アニメの声優さん方がお年を召されたことや、今の時代のプロモーションを兼ねてかなとは思いますが、きちんとプロ声優を起用しているので、演技に安定感はありました。
これらは、公開後も色んな意見があるようですが、個人的には特に気になりませんでした。
個人的には、三宅健太さんの御声が好きなので、本映画で聴けて良かったです(笑)。
ちなみに、応援上映あったら盛り上がりそうですね。既にやってるのかな?
3. 1990年代前半らしい高校生像は健在、でも、広い世代に受けているのは良い。
原作漫画は、1990年代前半の連載ということもあり、正に「ジャンプ黄金期」でした。観客はアラサー・アラフォー・アラフィフ世代が多かったです。でも、その世代の方のお子様や、本作を連載リアルタイムで読んでいない小中高生にも受けているのは良いですね。
この年代の週刊少年ジャンプに連載された漫画って、顔の濃くてゴリゴリマッチョな体格・ガムシャラでガチンコ・スポ根・不良ヤンキー・すぐに手が出る、みたいな作品が多かったように思います。
個人的には、『DRAGON BALL』・『ろくでなしBLUES』・『ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない』を思い出します。
本作も、上記の作品達も、癖の強い絵柄故に好みはハッキリと分かれそうですが、嵌る人は深く嵌る作風ですね。
それにしても、本作の選手達、誰も高校生に見えないのは草でした(笑)
もし原作漫画が今の時代に連載されていたら、どこまで人気が出たんだろう?ちょっと気になります。
ちなみに、テレビアニメの時点で思っていたこととして、学校に遅くまで残って練習するのは、この当時ならではだなぁと思いました。
4. 本作は兄弟の話だけど、母の話でもある。
本作は宮城兄弟の話ですが、同時に彼らの母の話でもあります。
よく出来た兄ソータと、それを追いかける弟リョータ、仲が良い兄弟だったけれど、幼さ故にリョータが投げつけた「最後の言葉」で、彼の中にはずっと後悔が残ります。
兄の死後、息子の死を受け入れられず悲しむ母、周りからの重圧に押しつぶされそうになる弟、お互いにコミュニケーションがうまく行かずに、ぶつかり合ってしまう親子、人の死は、遺された人達の関係性を変えてしまうことがありますよね。
しかも、周りも上の子と下の子を重ねて見てしまっていました。お互いに「別の人間」なのに。よくある話ではありますけどね。
母は、ソータの試合やリョータがバスケの練習をする様子をビデオに収めており、2人の誕生日にはそれを一人で観賞していました。
リョータは母とぶつかったときに、母はバスケは嫌なんじゃないかと推測していましたが、(兄の事を思い出すから)良く考えると、リョータがバスケをするのを止めた事は一度もなかったです。IH第2回戦の山王工業との試合を2階からそっと観戦していました。
リョータの小学生時のミニバスの試合での「挫折」と、本試合での「活躍」は、うまく対比されていたのかなと思います。彼が壁を乗り越えたことが母の心を動かしたんだと思います。子供はいつかは親離れして巣立っていく、親も子離れしていくものです。これは、嬉しくも寂しいことだけど、親と子は別の人間、お互いがお互いの人生を歩み、次のステップに行くためには必要なことですよね。
そして、妹のアンナの明るさも良かったです。家庭では母と兄を繋ぐ上手い立ち位置でした。実はこういう子が「家族のケアラーポジション」になってしまって、本当の気持ちを押し殺していないかなと心配になっていたんですが、ここについては、そこまで重くは描かれていません。
後は、沖縄の海と鎌倉の海の対比がなされていたように思います。(ここは意図してなのか、そうでないのかはわかりませんが。)沖縄の砂浜は珊瑚で出来ていて白いけど、鎌倉の砂浜は輝石と砂鉄で黒い。遠くに江ノ島が見えます。お母さん、よく浜辺に来てました。この景色は彼女の気持ちの対比かな。
実は、宮城兄弟は同じ誕生日でした。最後にケーキを「4つ」に切って、1つのケーキに蝋燭を刺した演出が良かったです。
5. 桜木花道は本作では主役ではないけど、相変わらずの存在感。
桜木花道は本作では主役ではないけど、相変わらずの存在感でした(笑)。良くも悪くもぶっ飛んでいて、ドタバタコメディー要員なところが。そんな彼の性格や行動は好みが分かれそうですね。
本作はシリアスなストーリー故に、いつものコメディカルな感じは抑えられていたけれど、それでも目立っていました(笑)
腰やられたのはこの時だったんですね。彼は試合を続けたくて、安西先生に掛け合います。気持ちはわかるけど、本当は無理したらいけません。まぁ、こういう展開はスポーツ作品にはありがちですけどね。
それでも、最後の「ブザービート」は格好良かったです。
6. 試合への気持ちは、バスケだけじゃない「普遍性」を感じた。
本作で最も印象に残ったのは、試合後の山王工業高校の堂本コーチの言葉「『負けたことがある』というのが、いつか大きな財産になる」です。
この気持ち、本当に大事だと思います。人生っていつも勝ちが続く訳じゃない、勝たなかったからこそ、敗者の気持ちがわかるのかもしれません。勿論、勝負の結果は大事だけど、それまでの過程も大事だと思える言葉でした。
ここは、ハリウッド女優のハル・ベリーがラジー賞を受賞したときに、彼女の母からかけられた言葉「胸を張って『負け犬』になれないなら、『勝ち犬』にもなれないわよ」にも重なります。
山王工業高校は、選手層が厚く、控えの選手だけではなく、応援席にも沢山生徒がいました。コートに出られるのはほんのひと握り、皆実力はあるのかもしれないけれど、その中で抜きん出た者が出場する、スポーツの厳しさですよね。でも、色んな立場で試合に参加・協力するのです。一人一人に役割があって、目立つ所にいる人だけしか必要とされているわけじゃない、ここは、学校や会社もそうですよね。
原作漫画も本映画も、基本はバスケットボールの話ですが、それだけじゃない、人生における大切なメッセージが沢山込められていると思います。だからこそ広く受けるし、普遍性を感じられるのかなと思います。
最後に、映画化の発表聞いたとき、「実写」かと思ってヒヤッとしたけど、結果アニメで良かったです(笑)。
実写は…あの高身長とゴリマッチョを揃えるのはかなり至難の業ですね。
出典:
・映画「THE FIRST SLAM DUNK」公式サイト
※ヘッダーは公式サイトから引用。
・映画「THE FIRST SLAM DUNK」公式パンフレット
・井上雄彦 Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E9%9B%84%E5%BD%A6
・SLAM DUNK Wikipediaページ
・THE FIRST SLAM DUNK Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/THE_FIRST_SLAM_DUNK